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ただの悪役令嬢"声優"は静かに暮らしたい ― 超有能な勘違い弟子令嬢から溺愛されて逃げられません ―  作者: 荒瀬 維人
第8章:悪役令嬢、世界を降りる

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第1節:枢機卿の帰還、ルークへの誘惑

(ルーク視点)


あれから、三ヶ月が経った。


枢機卿ツィチェン・イッツァ・アッゲーノが逃亡してから――


王国は、警戒態勢を続けていた。


だが――


彼の行方は、掴めなかった。


「……」


僕は、ギルドの掲示板を見つめていた。


相変わらず、師匠の功績が語られている。


『聖典の化身、邪神復活を阻止』


『シルヴィア・ド・ノワール、王国の守護者』


「はぁ……」


僕は、小さくため息をついた。


(師匠……また忙しくなってる)


最近、師匠は王宮に呼ばれることが多くなった。


そして――


聖女即位式の話が、進んでいた。


「ルーク」


声がして、振り向くと――


見知らぬ老人が、立っていた。


「……?」


「少し、話がある」


老人が、小声で言う。


「師匠のことだ」


「!」


僕は、警戒した。


「あなたは……?」


「今は名乗れない。だが――」


老人が、周囲を確認する。


「シルヴィア様を、救いたいと思っている」


「……」


僕は、老人を見つめた。


その目には――


何か、真剣なものが宿っていた。


「ついて来てくれ」


老人が、路地裏に向かう。


僕は――


少し迷ったが、ついていった。


(師匠のことなら……)


*  *  *


路地裏の奥。


人気のない場所。


「それで――」


僕は、訊ねた。


「師匠を、救うって……どういうことですか?」


「ふむ」


老人が、頷く。


「単刀直入に言おう」


「シルヴィア様は――」


「聖女即位式で、囚われる」


「!」


僕は、驚いた。


「囚われる……?」


「そうだ」


老人が、真剣に言う。


「聖女として即位すれば――」


「もう、自由はない」


「一生、王国と教会に縛られる」


「……」


僕は、黙り込んだ。


(それは……分かってる)


「だから――」


老人が、続ける。


「即位式の前に――」


「シルヴィア様を、逃がすべきだ」


「逃がす……?」


「そうだ」


老人が、地図を広げる。


「この国の外へ」


「誰も知らない場所へ」


「そこで、静かに暮らせばいい」


「……」


僕は、地図を見つめた。


(師匠を、逃がす……)


「お前の力が、必要だ」


老人が、僕を見る。


「お前は、シルヴィア様の弟子」


「お前なら――」


「シルヴィア様を、説得できる」


「……」


僕は、考え込んだ。


(師匠を、逃がす……)


(それは、師匠のためになるのか?)


その時――


老人の袖から――


何かが、見えた。


黒い紋章。


「……!」


僕は、固まった。


(あれは……邪神の紋章……!)


「どうした?」


老人が、訊ねる。


「あ、いえ……」


僕は、動揺を隠した。


(この人……まさか……)


僕は、冷静に訊ねた。


「一つ、聞いてもいいですか?」


「何だ?」


「なぜ、僕に?」


「……」


老人が、少し考える。


「お前が、一番――」


「シルヴィア様のことを、考えているからだ」


「……」


僕は、老人を見つめた。


そして――


決めた。


「分かりました」


僕は、頷いた。


「協力します」


「本当か!?」


老人が、目を輝かせる。


「ええ」


僕は、微笑む。


「師匠を、逃がしましょう」


「よし!」


老人が、満足そうに頷く。


「では、計画を――」


だが――


その時。


「そこまでだ」


声が、響いた。


「!」


老人が、振り向く。


そこには――


リザ、マンディ、セラ、そして――


王国騎士たちが、立っていた。


「な、何……!?」


老人が、驚愕する。


「ルーク――」


リザが、僕を見る。


「よくやったわ」


「……」


僕は、老人を見つめた。


「ごめんなさい」


「お前……罠か……!」


老人が、怒りの表情を浮かべる。


「はい」


僕は、頷く。


「あなたが、誰だか――」


「分かってましたから」


老人が――


フードを脱いだ。


そこには――


禿げ上がった頭が、輝いていた。


「枢機卿……!」


マンディが、叫ぶ。


「ツィチェン・イッツァ・アッゲーノ……!」


「くっ……」


枢機卿が、舌打ちする。


「いつから、気づいていた?」


「最初からです」


僕は、冷静に答える。


「袖から見えた、邪神の紋章」


「それで、確信しました」


「……」


枢機卿が、悔しそうに唸る。


「それに――」


僕は、続ける。


「師匠を逃がすなんて――」


「僕は、絶対にしません」


「何……?」


「師匠は――」


僕は、真剣に言った。


「逃げたくても、逃げられない人です」


「リザ、マンディ、セラ――」


「みんなのことを、大切に思ってる」


「だから――」


「師匠は、絶対に逃げない」


「……」


枢機卿が、黙り込む。


「それを知ってて――」


僕は、枢機卿を見つめる。


「師匠を逃がそうとするなんて――」


「あなたは、師匠のことを――」


「何も分かってない」


「……」


枢機卿の目が、冷たくなる。


「ふん……」


「小賢しい小僧め」


そして――


枢機卿が、笑った。


「だが、どちらにしろ――」


「女神とともに邪神は復活する」


「!」


僕は、驚いた。


「どういう意味ですか!?」


だが――


枢機卿は、煙幕を張った。


「うわっ!」


視界が、塞がれる。


そして――


煙が晴れた時には――


枢機卿の姿は、なかった。


「逃げられた……!」


リザが、悔しそうに叫ぶ。


「ルーク」


セラが、僕に近づく。


「大丈夫か?」


「ええ」


僕は、頷く。


「でも――」


「枢機卿の最後の言葉……」


「女神とともに邪神は復活する……」


僕は、不安になった。


「どういう意味だろう……」


「……」


セラも、考え込む。


「分からない……だが――」


「嫌な予感がする」


*  *  *


その夜。


僕たちは、師匠に報告した。


「枢機卿が……」


師匠が、驚く。


「はい」


僕は、頷く。


「僕を誘惑しようとしましたが――」


「罠にはめて、拘束しようとしました」


「でも、逃げられました」


「……」


師匠が、黙り込む。


「それと――」


僕は、続ける。


「枢機卿が、最後に言った言葉が――」


「『女神とともに邪神は復活する』と」


「!」


師匠の顔が、青ざめた。


「女神とともに……?」


「はい」


「……」


師匠が、考え込む。


そして――


小さく、呟いた。


「もしかして……」


「師匠?」


「いえ、何でもないわ」


師匠が、首を横に振る。


「とにかく――」


「警戒を強めましょう」


「はい」


だが――


師匠の表情は――


どこか、不安そうだった。


(師匠……何か、知ってるのか?)


僕は、心配になった。


――第8章第1節、完。


枢機卿が、帰還した。


老人に変装して――


ルークを、誘惑しようとした。


「師匠を逃がそう」と。


だが――


ルークは、罠を仕掛けた。


枢機卿を、拘束しようとした。


しかし――


枢機卿は、逃亡した。


そして――


最後に、言った。


「どちらにしろ、女神とともに邪神は復活する」


その言葉の意味は――


まだ、誰にも分からない。


だが――


嵐の予感が――


静かに、近づいていた。

最後までありがとうございました!


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