第5節:王国、しのぶを"国家の象徴"に認定(完全版)
(しのぶ視点)
ルークたちが――
助けようと、してくれた。
王家の別荘で、静養。
明日の予定を、キャンセル。
「……」
私は、少しだけ――
希望を、感じた。
(もしかして……)
(助かるかも……)
だが――
それは、甘かった。
翌日。
セラが――
王宮に、交渉に行った。
「師匠の静養について――」
「王宮に、許可を求めます」
そう言って――
出かけていった。
「……」
私は、クラン拠点で――
待っていた。
(頼む……)
(許可して……)
数時間後。
セラが――
戻ってきた。
「セラ!」
リザが、駆け寄る。
「どうでしたか!?」
「……」
セラが、黙り込む。
その表情は――
暗かった。
「駄目、だった」
「え……」
リザが、固まる。
「駄目って……」
「王宮が――」
セラが、悔しそうに言う。
「師匠の静養を、認めなかった」
「!」
私は、固まった。
「どうして……」
ルークが、呟く。
「理由は――」
セラが、書類を取り出す。
そこには――
『シルヴィア・ド・ノワールは国家の象徴である』
『国家の顔である以上、公務は義務である』
『個人的な静養は、国益を損なう』
『よって、静養申請を却下する』
と、記されていた。
「……」
私は、完全に――
絶望した。
「国益って……」
「義務って……」
ルークが、震える声で言う。
「師匠は、物じゃない!」
「分かってる」
セラが、拳を握る。
「だから、僕も――」
「必死に、説得したんだ」
「でも――」
セラが、悔しそうに言う。
「王宮は、聞かなかった」
「……」
リザが――
書類を、握りしめる。
「こんなの……」
「おかしいわ……」
マンディも、涙を浮かべる。
「師匠は、人間ですわ……」
「休む権利が、あります……」
「……」
僕たちは――
黙り込んだ。
そして――
私が、小さく――
呟いた。
「もう、いいのよ」
「師匠……」
ルークが、私を見る。
「諦めないでください!」
「僕たち、まだ――」
「いいの」
私は、首を横に振る。
「もう――」
「疲れたから」
その日の夕方。
王宮から――
使者が、来た。
「シルヴィア様」
使者が、書類を差し出す。
「明日の予定です」
「……」
私は、力なく――
書類を、受け取る。
そこには――
『午前10時:王宮での式典』
『午後2時:ギルド本部での会議』
『午後5時:貴族院での晩餐会』
『午後8時:教会での祈祷会』
と、記されていた。
朝から晩まで――
休みなし。
「……」
私の手が、震えた。
(もう……無理)
「さらに――」
使者が、続ける。
「来週からの、予定も――」
「決定しております」
使者が、別の書類を差し出す。
そこには――
『1ヶ月分の予定表』が、記されていた。
毎日、式典。
毎日、会議。
毎日、晩餐会。
休みは、ゼロ。
「……」
私の魂が――
抜けた。
「ちょっと待ってください!」
ルークが、叫ぶ。
「これ、休みが全くないじゃないですか!」
「はい」
使者が、淡々と答える。
「シルヴィア様は、国家の象徴です」
「休みは、必要ありません」
「必要ないって……」
ルークが、怒る。
「師匠だって、人間です!」
「休みが――」
「国家の象徴に――」
使者が、冷たく言う。
「人権は、ありません」
「!」
ルークが、固まった。
「人権が、ない……?」
リザが、震える声で訊ねる。
「はい」
使者が、頷く。
「シルヴィア様は――」
「もう、個人ではありません」
「王国の所有物です」
「……」
会場が――
静まり返った。
「所有物って……」
マンディが、涙を流す。
「師匠は、物じゃありません……」
「法的には――」
使者が、書類を見せる。
「シルヴィア様は――」
「国家象徴法により――」
「王国に、帰属します」
「つまり――」
使者が、冷たく言った。
「王国の、所有物です」
「……」
私は、何も言えなかった。
そして――
小さく、呟いた。
「もう――」
「逃げられない」
使者が、去った後。
私は――
一人、自室にいた。
ベッドに、座る。
窓の外を、見る。
夜の王都。
無数の灯り。
そして――
街中に貼られた――
私のポスター。
「……」
私は、小さく――
呟いた。
「助けは、来ない」
扉が、ノックされる。
「師匠……」
ルークの声。
「入って」
私は、力なく答える。
扉が、開く。
ルーク、リザ、マンディ、セラが――
入ってくる。
「……」
みんな、泣いていた。
「師匠……」
リザが、震える声で言う。
「私たち――」
「何もできなくて……」
「ごめんなさい……」
「いいのよ」
私は、微笑む。
「あなたたちは、頑張ってくれたわ」
「でも……」
マンディが、涙を流す。
「師匠を、助けられなかった……」
「……」
「ねえ、みんな」
私は、窓の外を見る。
「私ね――」
「もう、疲れちゃった」
「師匠……」
「戦うの、疲れた」
私は、小さく笑う。
「だから――」
「もう、諦めるわ」
「!」
ルークが、叫ぶ。
「諦めないでください!」
「僕たち、まだ――」
「ルーク」
私は、ルークを見る。
「あなたたちは――」
「十分、頑張ってくれたわ」
「でも――」
私は、続ける。
「もう、無理なの」
「王国が――」
「私を、放さないから」
「……」
「これからは――」
私は、立ち上がる。
「ちゃんと――」
「国家の象徴として――」
「生きていくわ」
「師匠……」
リザが、泣く。
「それでいいの……?」
「いいのよ」
私は、微笑む。
「だって――」
「もう、選択肢が――」
「ないもの」
そして――
私は、また――
笑った。
「おーっほっほっほっ……」
高笑いが――
部屋に、響く。
「……」
みんなが――
黙り込む。
私は――
笑い続けた。
「おーっほっほっほっほっ……」
止まらない。
もう――
止められない。
「師匠!」
ルークが、叫ぶ。
だが――
私は、笑い続けた。
「おーっほっほっほっほっ……」
そして――
ようやく、笑いが止まる。
「……」
私は、無表情に戻る。
「明日も――」
「頑張りましょう」
そう言って――
ベッドに、横になった。
「おやすみなさい」
「……」
みんなが――
何も言えずに――
部屋を、出ていく。
一人になった。
「……」
私は、天井を見つめた。
涙が――
流れた。
「助けて……」
小さく――
呟いた。
「誰か……」
「助けて……」
だが――
その願いは――
誰にも――
届かなかった。
翌朝。
私は――
また、式典に向かった。
優雅に、歩く。
完璧に、微笑む。
そして――
「おーっほっほっほっ!」
高笑いを、する。
人々が、拍手する。
「素晴らしい……」
「聖女様……」
「……」
私は、笑い続けた。
止まらない。
もう――
壊れている。
だが――
誰も、気づかない。
誰も――
助けてくれない。
これが――
国家の象徴の――
現実。
「おーっほっほっほっ……」
私は――
笑い続けた。
もう――
止まらない。
――第7章第5節、完。
王国は――
師匠の静養を、認めなかった。
『国家の象徴である以上、公務は義務』
『個人的な静養は、国益を損なう』
『国家の象徴に、人権はない』
『王国の、所有物である』
師匠は――
所有物になった。
もう――
個人ではない。
休む権利も、ない。
逃げる自由も、ない。
弟子たちは――
泣いた。
だが――
何もできなかった。
師匠は――
諦めた。
「もう、疲れちゃった」
「戦うの、疲れた」
そして――
高笑いが、止まらなくなった。
「おーっほっほっほっ……」
もう――
壊れている。
だが――
誰も、気づかない。
誰も――
助けてくれない。
これが――
国家の象徴の――
現実。
――第7章、完。
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