第4節:ルーク、師匠の異変に気づく
(ルーク視点)
師匠の様子が――
おかしい。
昨日から――
高笑いが、止まらない。
「おーっほっほっ……」
自室から――
笑い声が、聞こえる。
「……」
僕は、不安になった。
(師匠……)
「ルーク」
リザが、廊下で――
僕を、呼び止めた。
「師匠のこと――」
「心配ですわね」
「……はい」
僕は、頷く。
「あの笑い……」
「明らかに、おかしいです」
「ええ」
リザが、困った様子で言う。
「昨日から、ずっと……」
「……」
僕たちは、顔を見合わせた。
その時――
師匠の部屋の扉が――
開いた。
「あら」
師匠が、出てくる。
「二人とも、どうしたの?」
「師匠!」
リザが、駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ」
師匠が、微笑む。
だが――
その笑顔は――
無表情だった。
目が、笑っていない。
口だけが――
笑っている。
「……」
僕は、背筋が寒くなった。
(これ……やばい)
「師匠」
僕は、勇気を出して訊ねた。
「本当に、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
師匠が、同じ答えを繰り返す。
「何も、問題ないわ」
そして――
その直後。
「おーっほっほっほっ!」
高笑いが――
また、始まった。
「!」
リザが、驚く。
「師匠……」
師匠は――
笑い続ける。
「おーっほっほっほっほっ……」
10秒。
20秒。
30秒。
「……」
僕は、固まった。
(これは……)
そして――
ようやく、笑いが止まる。
「……」
師匠が、無表情に戻る。
「さて」
師匠が、優雅に言う。
「今日の予定は?」
「あ、はい……」
リザが、慌てて書類を取り出す。
「今日は――」
「午前中、王宮での式典」
「午後、ギルド本部での会議」
「分かったわ」
師匠が、頷く。
「準備しましょう」
そして――
また――
「おーっほっほっ……」
笑い始めた。
その日の式典。
師匠は――
壇上に、立っていた。
「皆様」
師匠の声が――
ホールに、響く。
「本日は――」
「お集まりいただき――」
そして――
また。
「おーっほっほっほっほっ!」
高笑いが、始まった。
「……」
会場が、静まる。
だが――
また、誰かが――
拍手した。
「素晴らしい……」
「聖女様の笑い声……」
拍手が、広がる。
「……」
僕は、会場を見渡した。
(みんな……気づいてないのか?)
師匠が――
明らかに、おかしいことに。
式典が終わった後。
僕は、師匠に――
話しかけた。
「師匠」
「何、ルーク?」
師匠が、無表情で答える。
「あの……」
僕は、言葉を探す。
「少し、休んだ方が……」
「大丈夫よ」
師匠が、即答する。
「私は、元気だから」
そして――
「おーっほっほっ……」
また、笑う。
「……」
僕は、胸が苦しくなった。
その日の夜。
僕は、セラとマンディを――
呼び出した。
「二人に、相談があります」
「何だ、改まって」
セラが、訊ねる。
「師匠のこと、ですか?」
マンディも、心配そうに言う。
「はい」
僕は、頷く。
「師匠――」
「明らかに、おかしいです」
「……」
二人が、黙り込む。
「あの高笑い――」
僕は、続ける。
「絶対、何かあります」
「私も――」
マンディが、小さく言う。
「そう、思います」
「僕も、だ」
セラが、頷く。
「あれは、普通じゃない」
「じゃあ――」
僕は、二人を見る。
「どうすれば……」
「……」
セラが、考え込む。
「まず――」
「師匠に、休んでもらおう」
「でも――」
マンディが、困った様子で言う。
「リザが、許さないと思います」
「……」
僕たちは、黙り込んだ。
(リザ……)
確かに――
リザは、師匠を休ませようとしない。
「どうすれば……」
僕が、呟いた時――
扉が、開いた。
「何の、相談?」
リザが――
立っていた。
「!」
僕たちは、固まった。
「リザ……」
「聞こえたわよ」
リザが、真剣な表情で言う。
「師匠を、休ませるって」
「……」
「私も――」
リザが、小さく言う。
「そう、思ってた」
「え……」
僕は、驚いた。
「リザ……本当に?」
「ええ」
リザが、頷く。
「師匠の様子――」
「明らかに、おかしいもの」
「……」
リザが、椅子に座る。
「正直に言うと――」
「私、怖いの」
「怖い……?」
「ええ」
リザが、震える声で言う。
「師匠が――」
「壊れてしまいそうで」
「……」
僕たちは、黙って聞いていた。
「だから――」
リザが、僕たちを見る。
「みんなで、相談したかった」
「どうすれば――」
「師匠を、助けられるか」
僕たちは――
深夜まで、話し合った。
「まず――」
セラが、提案する。
「明日の予定を、キャンセルしよう」
「でも――」
マンディが、困る。
「王宮から、呼ばれてますわ」
「僕が、説明する」
セラが、きっぱりと言う。
「師匠の体調不良だと」
「……」
リザが、考え込む。
「それで――」
「王宮が、納得するかしら」
「させる」
セラが、真剣に言う。
「僕は、皇子だ」
「それくらいの権限は、ある」
「……」
リザが、頷いた。
「分かったわ」
「お願いします、セラ」
「それから――」
僕が、続ける。
「師匠を――」
「どこか、静かな場所に」
「休ませてあげたいんです」
「静かな場所……」
マンディが、考える。
「どこか、ありますか?」
「……」
セラが、しばらく――
考え込んだ。
そして――
「ある」
頷いた。
「王家の別荘が――」
「王都から、少し離れた森にある」
「そこなら――」
「誰にも、邪魔されない」
「!」
僕は、目を輝かせた。
「それです!」
「でも――」
リザが、心配そうに言う。
「師匠が、承諾するかしら」
「……」
僕たちは、顔を見合わせた。
「説得しよう」
僕は、決意した。
「みんなで――」
「師匠を、説得しましょう」
「……」
リザが、頷く。
「そうね」
「師匠のために――」
「頑張りましょう」
翌朝。
僕たちは――
師匠の部屋に、集まった。
「師匠」
リザが、ノックする。
「入ってもよろしいですか?」
「……どうぞ」
師匠の声が、聞こえる。
僕たちは――
部屋に、入った。
師匠は――
ベッドに、座っていた。
無表情で――
窓の外を、見ている。
「……」
僕は、胸が痛くなった。
(師匠……)
「師匠」
リザが、前に出る。
「お話が、あります」
「何かしら」
師匠が、無表情で答える。
「師匠――」
リザが、真剣に言う。
「少し、休んでください」
「……」
師匠が、リザを見る。
「休む……?」
「はい」
リザが、頷く。
「師匠、疲れてますから」
「……」
師匠が、黙り込む。
そして――
小さく、笑った。
「大丈夫よ」
「私は、元気だから」
そして――
「おーっほっほっ……」
また、笑い始めた。
「師匠!」
僕は、思わず――
叫んだ。
「それ、おかしいです!」
「……」
師匠の笑いが、止まる。
「おかしい……?」
「はい」
僕は、真剣に言う。
「師匠、笑いが――」
「止まらなくなってます」
「それは――」
「明らかに、異常です」
「……」
師匠が、黙り込んだ。
そして――
小さく、呟いた。
「……分かってる」
「師匠……」
「私も――」
師匠が、震える声で言う。
「分かってるのよ」
「おかしいって」
「でも――」
師匠が、顔を覆った。
「止まらないの……」
「笑いが、止まらないの……」
その瞬間――
僕は、理解した。
(これは――)
(助けを求めてる)
師匠は――
壊れかけている。
そして――
助けを、求めている。
「……」
僕は、前に出た。
「師匠」
「……」
「僕たちが――」
僕は、真剣に言った。
「師匠を、助けます」
「ルーク……」
「だから――」
僕は、続ける。
「少しだけ、僕たちを――」
「信じてください」
師匠が――
ゆっくりと、顔を上げた。
その目には――
涙が、浮かんでいた。
「……ありがとう」
小さく――
呟いた。
――第7章第4節、完。
ルークは、気づいた。
師匠の異変に。
高笑いが、止まらない。
無表情で「大丈夫」と言った直後に――
「おーっほっほっ」と笑い出す。
これは――
異常だ。
ルークは、みんなを集めた。
セラ、マンディ、そして――
リザも。
リザも、気づいていた。
「師匠が、壊れてしまいそうで――」
「怖いの」
みんなで、話し合った。
明日の予定を、キャンセルしよう。
師匠を、静かな場所に。
王家の別荘へ。
そして――
師匠に、伝えた。
「僕たちが、師匠を助けます」
師匠は――
涙を浮かべた。
「ありがとう……」
これは――
助けを求めるサイン。
ルークは、理解した。
師匠を――
救わなければ。
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