第3節:しのぶ、限界寸前(高笑いが止まらない)
(しのぶ視点)
ポスター騒動から、一週間が経った。
私の生活は――
完全に崩壊した。
外出は、不可能。
プライバシーは、ゼロ。
毎日、式典。
毎日、会議。
毎日、表彰。
「……」
私は、もう――
限界だった。
今日は――
王国貴族院での、晩餐会。
「シルヴィア様、こちらへ」
侍従が、私を案内する。
「……はい」
私は、優雅に歩く。
(演技、演技……)
だが――
最近、演技と現実の――
境目が、分からなくなってきた。
「……」
(私、誰だっけ)
声優の、しのぶ?
それとも――
聖女の、シルヴィア?
(分からない……)
晩餐会が、始まった。
貴族たちが――
次々と、話しかけてくる。
「シルヴィア様」
「皇子を導かれるとは、素晴らしい」
「ありがとうございます」
私は、優雅に答える。
笑顔を、作る。
(笑って、笑って……)
「シルヴィア様」
別の貴族が、近づく。
「あなたの教えを――」
「ぜひ、我が家の子にも」
「光栄です」
私は、微笑む。
(もう、何人目……?)
「シルヴィア様」
また、別の貴族。
「ポスター、拝見しました」
「美しかったです」
「ありがとうございます」
笑顔、笑顔。
(笑って……)
だが――
その時。
何かが――
切れた。
「あ……」
私の口が――
勝手に、動いた。
「おーっほっほっほっ!」
高笑いが――
出てしまった。
「!」
私は、慌てて――
口を押さえる。
(やば……)
貴族が、不思議そうに見ている。
「シルヴィア様……?」
「あ、いえ……」
私は、ごまかす。
「ちょっと、嬉しくて……」
「そうですか」
貴族が、微笑む。
「それは、良かった」
貴族が、去る。
「……」
私は、冷や汗をかいた。
(危ない……)
(高笑い、出ちゃった……)
だが――
それは、始まりだった。
その後も――
晩餐会は、続いた。
貴族たちと、会話。
笑顔で、応対。
優雅に、振る舞う。
だが――
また。
「おーっほっほっ……」
笑いが、出た。
「!」
私は、慌てて止める。
(また……)
そして――
また。
「おーっほっほっほっ……」
「……」
(止まらない……)
貴族が、微笑む。
「シルヴィア様、ご機嫌ですね」
「あ、ええ……」
私は、ごまかす。
「今日は、楽しくて……」
「それは、良かった」
だが――
私の心の中では――
警告音が鳴り響いていた。
(やばい……)
(高笑いが、止まらない……)
晩餐会の後半。
私は――
壇上に、立たされた。
「それでは――」
司会が、声を上げる。
「シルヴィア様より――」
「一言、お願いします」
「……」
私は、深呼吸する。
(落ち着いて……)
(ちゃんと、話すのよ……)
「皆様」
私の声が――
ホールに、響く。
「本日は――」
「お招きいただき――」
「あり――」
その時。
また――
切れた。
「おーっほっほっほっほっほっ!」
高笑いが――
止まらなくなった。
「!」
私は、必死に――
止めようとする。
だが――
「おーっほっほっほっほっほっほっ!」
「おーっほっほっほっほっほっほっ!」
30秒以上――
笑い続けた。
「……」
ホールが――
静まり返る。
(やばい……)
(これ、やばい……)
私は、心の中で叫んだ。
(壊れてる……)
(私、壊れてる……)
だが――
笑いは、止まらない。
「おーっほっほっほっほっ……」
そして――
ようやく――
笑いが、止まった。
「……」
ホールが――
静寂に、包まれる。
(終わった……)
私は、絶望した。
(これで、完全に……)
だが――
その時。
誰かが――
拍手した。
パチパチパチ……
「素晴らしい……」
「シルヴィア様、喜んでおられる……」
「あの高笑い……」
「まさに、気品そのもの……」
拍手が――
広がっていく。
「聖女様の笑い声……」
「美しい……」
「感動した……」
「……」
私は、完全に――
理解不能になった。
(え……)
(これ、おかしいでしょ……)
(明らかに、壊れてたのに……)
だが――
貴族たちは――
本気で、感動している。
「シルヴィア様の笑い声――」
「初めて、聞きました……」
「幸せです……」
「……」
私は、小さく――
呟いた。
「もう……何もかも……おかしい」
だが――
その声は――
拍手に、かき消された。
晩餐会が終わった後。
控室で――
私は、ソファに――
倒れ込んだ。
「……」
「師匠、お疲れ様でした」
リザが、お茶を差し出す。
「ありがとう……」
私は、力なくお茶を受け取る。
「師匠」
マンディが、目を輝かせる。
「今日の高笑い――」
「素晴らしかったですわ!」
「……」
私は、何も言えなかった。
「あの笑い声――」
リザも、頷く。
「まさに、気品そのもの」
「貴族たちも、感動していましたわ」
「……」
(違う……)
私は、心の中で叫んだ。
(あれは、壊れてただけ……)
(笑いが、止まらなかっただけ……)
だが――
それを、言葉にすることは――
できなかった。
「師匠?」
リザが、心配そうに訊ねる。
「顔色が、悪いですが……」
「……大丈夫」
私は、嘘をつく。
「ちょっと、疲れただけ」
「そうですか」
リザが、頷く。
「では、早めに――」
「お休みください」
「……うん」
その夜。
私は――
一人、自室にいた。
ベッドに、座る。
鏡を、見る。
そこには――
疲れ切った、私がいた。
「……」
私は、小さく――
呟いた。
「もう……限界」
そして――
また――
笑いが、出た。
「おーっほっほっ……」
一人で――
笑っている。
「おーっほっほっほっ……」
止まらない。
「……」
私は、枕に――
顔を、埋めた。
「やめて……」
「もう……やめて……」
だが――
笑いは、止まらない。
「おーっほっほっ……」
枕越しに――
笑い声が、漏れる。
「……」
私は、泣いた。
笑いながら――
泣いた。
「やめて……」
「もう……やめて……」
だが――
誰も、聞いていない。
誰も、気づかない。
私は――
一人で――
壊れていく。
翌朝。
王都の新聞には――
『聖女の高笑い、貴族たちを魅了』
という見出しで――
昨日の晩餐会の記事が、掲載された。
記事には――
「シルヴィア様の美しい笑い声」
「気品溢れる高笑い」
「貴族たちが感動」
と、書かれていた。
「……」
私は、新聞を見て――
笑った。
「おーっほっほっ……」
また――
止まらない。
「おーっほっほっほっ……」
リザが、部屋に入ってくる。
「師匠、今日も――」
「おはようございま――」
リザが、固まった。
「師匠……?」
「おーっほっほっほっ……」
私は、笑い続ける。
「し、師匠!?」
リザが、慌てる。
「大丈夫ですか!?」
「おーっほっほっ……」
「師匠!」
だが――
私は、笑い続けた。
止まらない。
もう――
止められない。
「ルーク! マンディ!」
リザが、叫ぶ。
「師匠が……!」
「どうしたの!?」
ルークたちが、駆け込んでくる。
「師匠が――」
リザが、泣きそうになる。
「笑いが、止まらないの……」
「え……」
ルークが、私を見る。
「師匠……?」
私は――
ルークを見つめた。
そして――
小さく――
助けを求める声を――
出した。
「たすけ……て……」
だが――
その声は――
笑い声に――
かき消された。
「おーっほっほっほっほっ……」
――第7章第3節、完。
師匠は――
壊れかけていた。
高笑いが――
止まらなくなった。
晩餐会で、30秒以上。
自室で、一人で。
翌朝も、また。
止まらない。
だが――
周囲は、気づかない。
「聖女様、喜んでおられる」
「美しい高笑い」
誰も――
壊れていることに、気づかない。
師匠は――
助けを求めた。
「助けて……」
だが――
その声は――
笑い声に――
かき消された。
「おーっほっほっほっ……」
もう――
止まらない。
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