第1節:セラ、正体がバレる(偶然の事故)
(ルーク視点)
その日は――
王都の大通りで――
慈善市が開かれていた。
「すごい人だ……」
僕は、人混みを見渡す。
貴族も、平民も――
みんな、市を楽しんでいる。
「師匠も、来てくださって――」
リザが、嬉しそうに言う。
「ありがとうございますわ」
「いいのよ」
師匠が、優雅に微笑む。
だが――
僕には、分かる。
その笑顔は――
演技。
「……」
僕たちは――
市の中を、歩いていた。
師匠の周りには――
護衛が、10名。
メイドが、5名。
「……」
(目立ちすぎだろ……)
僕は、心の中で呟いた。
案の定――
周囲の人々が――
一斉に、振り向く。
「あれ……シルヴィア様!?」
「本物だ……!」
「聖女様だ!」
人々が、集まってくる。
「シルヴィア様!」
「握手してください!」
「サインを!」
護衛たちが――
人々を、制止する。
「申し訳ありません」
「シルヴィア様は、公務中です」
「お控えください」
だが――
人々は、引かない。
「お願いします!」
「一目だけでも!」
「……」
師匠が、小さく息をつく。
そして――
優雅に、微笑んだ。
「みなさん」
師匠の声が――
人々を、静める。
「ありがとうございます」
「私は――」
「みなさんのおかげで、ここにいます」
その言葉に――
人々が、感動する。
「なんと、謙虚な……」
「まさに、聖女様……」
師匠が、人々に――
手を振る。
優雅に、一礼する。
そして――
護衛に囲まれて――
その場を、離れた。
「……」
僕は、師匠の背中を見ていた。
(師匠……疲れてる)
あの笑顔は――
完璧だった。
でも――
きっと、心の中では――
悲鳴を上げている。
市を抜けて――
少し、静かな場所に出た。
「ふぅ……」
師匠が、小さくため息をつく。
「お疲れ様です、師匠」
マンディが、水を差し出す。
「ありがとう」
師匠が、水を受け取る。
その時――
「わっ!」
セラの声が、聞こえた。
「セラ?」
僕が、振り向く。
セラが――
石につまずいて――
転んでいた。
「大丈夫か!?」
僕は、駆け寄る。
「あ、ああ……」
セラが、立ち上がる。
だが――
その拍子に――
帽子が、脱げた。
「……!」
セラが、慌てる。
だが――
遅かった。
金色の髪。
青い瞳。
そして――
額に刻まれた――
王家の紋章。
「……」
周囲の人々が――
固まった。
「あれ……」
「まさか……」
「第二皇子……!?」
どよめきが、広がる。
「セラフィン殿下……!?」
「皇子様が、こんな所に……!?」
「……」
セラが、完全に――
青ざめた。
「し、しまった……」
セラが、小声で呟く。
「帽子……」
僕は、慌てて――
帽子を拾う。
「ほら、セラ……」
だが――
もう、遅かった。
人々が――
一斉に、跪いた。
「「「セラフィン殿下!」」」
「……」
セラが、固まる。
そして――
小さく、呟いた。
「……バレた」
「セラフィン殿下!」
誰かが、叫ぶ。
「なぜ、こんな所に!?」
「護衛は!?」
「王宮に、連絡を!」
人々が、騒ぎ始める。
「ちょ、ちょっと……」
セラが、慌てる。
「待って、落ち着いて……」
だが――
人々は、聞かない。
「殿下が、民衆に紛れている!?」
「これは、大変なことだ!」
「王宮に、報告しないと!」
その時――
「みなさん」
師匠の声が――
響いた。
人々が――
一斉に、静まる。
「シルヴィア様……」
「落ち着いてください」
師匠が、優雅に言う。
「セラフィン殿下は――」
「私の、弟子です」
「……」
会場が――
さらに、静まり返った。
「弟子……?」
誰かが、呟く。
「皇子が……弟子……?」
「はい」
師匠が、頷く。
「殿下は、冒険者として――」
「修行中です」
「……」
人々が、顔を見合わせる。
そして――
「「「おおおおお!!!」」」
歓声が、上がった。
「皇子が、シルヴィア様の弟子に!?」
「これは、すごいことだ!」
「王国の誇りだ!」
セラが――
完全に、固まった。
「……終わった」
小さく、呟いた。
その後――
僕たちは、急いで――
クラン拠点に、戻った。
「……」
セラは、ソファに――
ぐったりと、座り込んでいる。
「やってしまった……」
「完全に、バレた……」
「セラ……」
僕が、声をかける。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけ、ないだろ……」
セラが、虚ろな目で答える。
「これで、僕は――」
「もう、普通の冒険者には――」
「戻れない……」
「まあまあ」
マンディが、お茶を差し出す。
「元気出してください、セラ」
「元気、出ないよ……」
セラが、力なく答える。
「父上に、怒られる……」
「それに――」
セラが、顔を上げる。
「これで、師匠にも――」
「迷惑が……」
「……」
師匠が、黙って――
窓の外を見ていた。
その時――
扉が、ノックされた。
「失礼します」
侍従が、入ってくる。
「シルヴィア様」
「はい……」
師匠が、力なく答える。
「王宮から、緊急の伝令です」
侍従が、書類を差し出す。
「……」
師匠が、書類を開く。
そして――
固まった。
「師匠……?」
リザが、心配そうに訊ねる。
「どうしました?」
「……」
師匠が、小さく――
呟いた。
「明日――」
「王宮で、緊急会議だって」
「緊急会議……?」
「うん」
師匠が、書類を見せる。
そこには――
『セラフィン皇子の冒険者活動について』
『シルヴィア・ド・ノワールの教育方針について』
『緊急王宮会議 明日午前10時』
と、記されていた。
「……」
セラが、完全に――
青ざめた。
「終わった……」
「完全に、終わった……」
その日の夜。
王都の新聞には――
『速報:第二皇子、聖女の弟子だった』
という見出しで――
僕たちの写真が、一面に掲載された。
記事には――
「皇子が民衆に紛れて修行」
「聖女シルヴィア、皇族すら導く」
「王国史上、前例のない事態」
と、書かれていた。
「……」
僕は、新聞を見て――
ため息をついた。
(これ……大変なことになった)
隣では――
セラが、ベッドに――
突っ伏していた。
「もう、人生終わった……」
「父上に、何て言おう……」
「セラ……」
「ルーク」
セラが、僕を見る。
「僕、もう――」
「王宮に、戻らないといけないかも」
「え……」
「皇子なんだから――」
セラが、自嘲的に笑う。
「当然だよね」
「……」
僕は、何も言えなかった。
「でも――」
セラが、小さく呟く。
「僕、まだ――」
「冒険者、続けたかったな……」
その声は――
悲しそうだった。
「……」
僕は、胸が痛くなった。
(セラ……)
翌朝。
僕たちは――
王宮に、向かった。
謁見の間。
国王が――
玉座に、座っている。
周りには――
大臣たちが、並んでいる。
「……」
僕は、緊張した。
(これ……どうなるんだろう)
「セラフィン」
国王が、セラを見る。
「……はい、父上」
セラが、跪く。
「お前――」
国王が、重々しく言う。
「なぜ、身分を隠して――」
「冒険者活動を、していた」
「それは……」
セラが、答えに詰まる。
「僕は――」
「普通の冒険者として――」
「修行したかったんです」
「……」
国王が、黙り込む。
そして――
「シルヴィア・ド・ノワール」
師匠を、見た。
「はい」
師匠が、優雅に一礼する。
「お前は――」
国王が、訊ねる。
「セラフィンが、皇子だと――」
「知っていたのか?」
「……」
師匠が、少し――
迷った。
そして――
「いいえ」
「最近、知りました」
と、答えた。
「そうか……」
国王が、頷く。
その時――
大臣の一人が――
口を開いた。
「陛下」
「何だ」
「これは――」
大臣が、真剣な表情で言う。
「前例のない、事態です」
「皇子が、民間の冒険者として――」
「活動していた」
「しかも――」
大臣が、師匠を見る。
「その師匠が――」
「王国公式クランのマスター」
「これは――」
大臣が、続ける。
「ある意味――」
「絶好の機会です」
「機会……?」
国王が、訊ねる。
「はい」
大臣が、頷く。
「皇子が、聖女の弟子」
「これは――」
大臣が、目を輝かせた。
「王国の威信を、大いに高めます」
「……」
僕は、嫌な予感がした。
「つまり――」
別の大臣が、続ける。
「シルヴィア様は――」
「皇族すら、導く存在」
「まさに――」
大臣が、真剣に言う。
「聖女そのものです」
「……」
師匠の顔が――
青ざめた。
「ですから――」
大臣が、提案する。
「この機会に――」
「シルヴィア様を――」
「王国の国家象徴として――」
「正式に、認定すべきです」
「!」
師匠が、固まった。
「国家象徴……」
国王が、呟く。
「それは――」
「はい」
大臣が、頷く。
「王国の顔として――」
「内外に、宣伝します」
「シルヴィア様の存在が――」
「王国の力を、示すのです」
「……」
国王が、考え込む。
そして――
「分かった」
頷いた。
「シルヴィア・ド・ノワールを――」
「王国の国家象徴として――」
「認定する」
「!」
師匠が、完全に――
固まった。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
師匠が、必死に言う。
「私は――」
「ただの冒険者で――」
「いや」
国王が、首を横に振る。
「お前は、もう――」
「ただの冒険者ではない」
「皇子を導き――」
「王国を守る――」
「聖女だ」
「……」
師匠の魂が――
抜けた。
会議が終わった後。
僕たちは――
控室に、戻った。
「……」
師匠は、ソファに――
ぐったりと、座り込んでいる。
「国家象徴って……」
「何、それ……」
虚ろな声で――
呟いた。
「師匠……」
リザが、心配そうに声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない……」
師匠が、力なく答える。
「もう、何もかも……」
「おかしい……」
その時――
セラが、深々と――
頭を下げた。
「すみません、師匠……」
「僕のせいで……」
「……」
師匠が、セラを見る。
そして――
小さく、笑った。
「いいのよ、セラ」
「あなたのせいじゃない」
「でも……」
「どうせ――」
師匠が、自嘲的に笑う。
「いつか、こうなってたわ」
「……」
師匠が、窓の外を見る。
「もう――」
「逃げられない」
小さく――
呟いた。
――第7章第1節、完。
セラが、転んだ。
帽子が、脱げた。
皇子の正体が、バレた。
人々は、驚いた。
そして――
「皇子が、聖女の弟子!」と、騒いだ。
王宮は――
これを、絶好の機会と見た。
「皇族すら導く聖女」
「王国の国家象徴として認定」
師匠は――
もう、ただの冒険者ではない。
国家の象徴になった。
セラは、謝った。
だが――
師匠は、笑った。
「どうせ、いつか――」
「こうなってたわ」
もう――
逃げられない。
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