第5節:ルーク、初めて師匠の味方になろうとする
(ルーク視点)
『師匠サポート強化計画・改訂版』から、三日が経った。
師匠の周りには――
専用馬車が5台並び――
専属シェフが10名待機し――
専属メイドが20名控えている。
「……」
僕は、その光景を見て――
絶望していた。
(これ……完全に、逆効果だ)
師匠は――
ますます、自由を失っている。
「……」
(このままじゃ、いけない)
僕は、決意した。
(もう一度――)
(ちゃんと、話をしよう)
その日の夕方。
僕は、リザとマンディを――
会議室に、呼んだ。
「ルーク?」
リザが、不思議そうに訊ねる。
「どうしたの、改まって」
「あの……」
僕は、深呼吸する。
そして――
真剣に言った。
「二人に、聞きたいことがあります」
「何かしら?」
マンディが、首を傾げる。
「二人は――」
僕は、勇気を出して訊ねた。
「師匠の気持ち、考えたことありますか?」
「……」
会議室が、静まり返った。
「師匠の気持ち……?」
リザが、きょとんとする。
「はい」
僕は、頷く。
「師匠が、本当は――」
「何を望んでいるか」
「考えたこと、ありますか?」
「……」
リザとマンディが――
顔を見合わせた。
そして――
「もちろんですわ!」
リザが、目を輝かせて答えた。
「え……」
僕は、拍子抜けした。
「も、もちろん……?」
「はい!」
リザが、力強く頷く。
「私は、毎日――」
「師匠の気持ちを、考えています!」
「私もですわ!」
マンディも、頷く。
「師匠の幸せが、私の幸せです!」
「……」
僕は、少し――
希望を感じた。
(もしかして……)
(分かってくれるかも)
「だから――」
僕は、続ける。
「師匠は、本当は――」
「静かに暮らしたいんじゃないかと……」
「静かに……?」
リザが、不思議そうに訊ねる。
「はい」
僕は、頷く。
「式典も、会議も、表彰も――」
「本当は、負担なんじゃないかと……」
「……」
リザとマンディが――
黙り込んだ。
(よし!)
僕は、心の中で叫んだ。
(伝わってる!)
だが――
その時。
「だから――」
リザが、目を輝かせた。
「全力で、サポートしないといけないんですわ!」
「……え?」
僕は、固まった。
「師匠が負担を感じているなら――」
マンディも、頷く。
「もっと、サポートを強化しないと!」
「いや、そうじゃなくて……」
僕が、言いかけた時――
「そうですわ!」
リザが、立ち上がった。
「ルーク、ありがとう!」
「え……」
「あなたのおかげで――」
リザが、僕の手を握る。
「師匠の本当の気持ちが、分かりましたわ!」
「いや、分かってない……」
「師匠は――」
マンディも、立ち上がる。
「もっと、私たちを頼ってほしいんですわ!」
「だから、負担を感じてるんです!」
「いや、違う……」
「分かりました!」
リザが、拳を握る。
「早速――」
「『師匠サポート超強化計画』を、作成します!」
「超強化って……」
僕は、絶望した。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
僕は、必死に止める。
「二人、話を聞いて……」
「もちろん、聞いてますわ!」
リザが、にこやかに答える。
「師匠の気持ちを、考えろ、ですよね?」
「はい……」
「だから――」
リザが、真剣な表情で言う。
「師匠が安心できるよう――」
「もっと、サポートを強化します!」
「いや、それ……逆です」
僕が、必死に説明する。
「師匠は――」
「サポートじゃなくて――」
「自由が、欲しいんです」
「自由……?」
マンディが、不思議そうに訊ねる。
「はい」
僕は、頷く。
「師匠は――」
「ただ、静かに暮らしたいだけなんです」
「式典も、会議も――」
「本当は、行きたくないんです」
「……」
リザとマンディが――
黙り込んだ。
そして――
リザが、小さく笑った。
「ルーク」
「はい……」
「あなた、師匠のこと――」
リザが、優しく言う。
「誤解してますわ」
「誤解……?」
「ええ」
リザが、頷く。
「師匠は――」
「決して、逃げる方ではありません」
「……」
「師匠は、強い方です」
マンディも、頷く。
「どんな困難も、乗り越える方です」
「だから――」
リザが、真剣に言う。
「式典も、会議も――」
「師匠なら、こなせます」
「私たちが、サポートすれば――」
「何も、問題ありません」
「……」
僕は、言葉を失った。
(これ……勝てない)
「ルーク」
リザが、僕の肩に手を置く。
「あなたの気持ちは、分かります」
「師匠を、心配してるんですよね」
「……はい」
「でも――」
リザが、微笑む。
「心配、無用ですわ」
「師匠は、強いんです」
「私たちが、支えていれば――」
「大丈夫です」
「……」
僕は、何も言えなかった。
「それに――」
マンディが、続ける。
「師匠が、もし本当に嫌なら――」
「おっしゃってくださるはずです」
「……」
(言えるわけ、ないじゃないか)
僕は、心の中で叫んだ。
(師匠は、みんなを傷つけたくないから――)
(何も、言えないんだ)
だが――
それを、言葉にすることは――
できなかった。
「分かりました……」
僕は、力なく答えた。
「ルーク」
リザが、にこやかに言う。
「ありがとう」
「あなたのおかげで――」
「師匠への想いを、再確認できましたわ」
「……」
(これ、完全に……逆だ)
その夜。
僕は、師匠に――
報告した。
「すみません、師匠……」
「ん?」
師匠が、不思議そうに訊ねる。
「何が?」
「僕――」
僕は、項垂れる。
「リザたちに、話をしてみたんです」
「師匠の気持ちを、考えてくれって……」
「……」
師匠が、黙って聞いている。
「でも――」
僕は、続ける。
「逆効果でした」
「今、『師匠サポート超強化計画』を――」
「作ってます……」
「……」
師匠が、しばらく――
黙っていた。
そして――
小さく、笑った。
「ありがとう、ルーク」
「師匠……?」
「あなた、頑張ってくれたのね」
師匠が、優しく言う。
「でも、無理よ」
「……」
「あの子たちは――」
師匠が、遠い目をする。
「善意で、動いてるから」
「善意……」
「ええ」
師匠が、頷く。
「善意には――」
「勝てないの」
「……」
僕は、黙り込んだ。
「あの子たちは、悪くない」
師匠が、続ける。
「本気で、私のためだと思ってる」
「だから――」
師匠が、苦笑する。
「どうしようもないのよ」
「でも、師匠……」
「いいのよ、ルーク」
師匠が、僕を見る。
「あなたが、味方でいてくれるだけで――」
「十分、救われてるから」
「……」
僕は、涙が出そうになった。
(師匠……)
「ねえ、ルーク」
師匠が、窓の外を見る。
「あなた、覚えてる?」
「何を……?」
「最初に、会った時のこと」
師匠が、懐かしそうに言う。
「あの時、私――」
「ただの冒険者だったわ」
「……」
「誰も、私のことを知らなかった」
師匠が、小さく笑う。
「静かで、平和だった」
「師匠……」
「でも、今は――」
師匠が、呟く。
「もう、戻れない」
「……」
「前に、進むしか――」
「ないのよ」
その声は――
諦めに満ちていた。
「……」
僕は、何も言えなかった。
(善意には、勝てない)
師匠の言葉が――
胸に、刺さった。
翌日。
『師匠サポート超強化計画』が――
発表された。
・専用馬車を5台から10台に増強
・専属シェフを10名から20名に増員
・専属メイドを20名から50名に増員
・専属護衛を常時20名配置
・師匠専用の執務室を王宮内に設置
「……」
師匠は、書類を見て――
完全に、固まった。
「素晴らしいでしょう!」
リザが、誇らしげに言う。
「これで、師匠の負担が――」
「大幅に、減りますわ!」
「……」
師匠の魂が――
抜けた。
「ルークのおかげですわ」
マンディが、僕を見る。
「あなたが、師匠の気持ちを考えろと言ってくれたおかげで――」
「こんな素晴らしい計画が、できました」
「……」
僕は、絶望した。
(僕……何やってるんだ)
師匠が――
僕を、見た。
その目には――
諦めが、浮かんでいた。
だが――
同時に――
小さな感謝も、込められていた。
(師匠……)
僕は、心の中で叫んだ。
(ごめんなさい……)
(僕、何もできない……)
「それでは――」
リザが、書類を閉じる。
「早速、実行に移しましょう!」
「はい!」
マンディが、立ち上がる。
「師匠のために!」
そして――
二人は――
嬉しそうに、会議室を出ていった。
残されたのは――
僕と、師匠だけ。
「……」
沈黙が、流れる。
「ルーク」
師匠が、小さく呟く。
「あなたは、悪くないわ」
「でも……」
「いいのよ」
師匠が、微笑む。
「あなたが、頑張ってくれたこと――」
「嬉しかったから」
「師匠……」
「さて」
師匠が、立ち上がる。
「次の予定に、行きましょうか」
「あ、はい……」
師匠が、扉に向かう。
その背中は――
いつもより、少しだけ――
小さく見えた。
その日の夜。
僕は、日記を書いた。
『今日、分かった』
『善意には、勝てない』
『リザたちは、悪くない』
『本気で、師匠のためだと思ってる』
『だから――』
『止められない』
『僕の努力は、全部――』
『逆効果だった』
『師匠を、助けられない』
『師匠を、自由にできない』
『僕には――』
『何もできない』
ペンを置く。
窓の外を見る。
夜の王都。
「……」
僕は、呟いた。
「師匠……」
「ごめんなさい……」
その謝罪は――
誰にも、届かなかった。
――第6章第5節、完。
ルークは、リザたちに――
師匠の気持ちを考えてくれと、訴えた。
だが――
リザたちの答えは――
「だから、もっとサポートを!」だった。
善意100%。
本気で、師匠のため。
だから――
止められない。
『師匠サポート超強化計画』
専用馬車10台。
専属シェフ20名。
専属メイド50名。
専属護衛20名。
王宮内に専用執務室。
すべて――
善意から生まれた。
ルークは、完全敗北した。
善意には、勝てない。
師匠は、諦めた。
「前に、進むしかない」
もう――
戻れない。
静かな暮らしは――
遠く、遠く――
離れていった。
――第6章、完。
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