第4節:リザ、本気で"引退させない"宣言
(ルーク視点)
翌日。
クラン拠点の会議室。
僕は――
決意していた。
(師匠を、助けたい)
師匠の演技を知った僕は――
何かできることはないかと、考え続けていた。
そして――
一つの答えに、たどり着いた。
(まずは、師匠を休ませよう)
会議が、始まる。
「本日の議題は――」
セラが、書類を開く。
「来月の活動計画についてです」
「来月は――」
リザが、別の書類を読み上げる。
「王宮での式典が3回」
「ギルド本部での会議が5回」
「貴族院からの招待が2回」
「教会での祈祷会が4回」
「……」
師匠の顔が――
少しだけ、曇った。
だが――
すぐに、笑顔に戻る。
「分かったわ」
「予定通り、進めましょう」
その時――
僕は、勇気を出して――
手を上げた。
「あの……」
「ん? ルーク?」
セラが、僕を見る。
「何か、意見があるのか?」
「はい」
僕は、頷く。
そして――
真剣に言った。
「師匠――」
「少し、休んだらどうですか?」
会議室が――
静まり返った。
「……え?」
リザが、きょとんとする。
「休む……?」
「はい」
僕は、続ける。
「師匠、最近――」
「すごく忙しそうですから」
「少し、休んだ方がいいんじゃないかと……」
師匠が――
僕を見た。
その目には――
少しだけ、希望の光が――
浮かんでいた。
「ルーク……」
(よし!)
僕は、心の中でガッツポーズをした。
(これで、師匠を――)
だが――
その時。
「却下です」
リザが、きっぱりと言った。
「……え?」
僕は、固まった。
「却下、ですか……?」
「はい」
リザが、真剣な表情で頷く。
「師匠に、休みは必要ありません」
「いや、でも……」
「ルーク」
リザが、僕を見る。
「あなた、分かってますか?」
「何を……?」
「師匠は――」
リザが、真剣に言う。
「王国の宝です」
「……」
「いえ」
リザが、訂正する。
「人類の宝です」
「人類って……」
僕が、呆然とする。
「ですから――」
リザが、続ける。
「師匠に休んでいただくわけには、いきません」
「いや、でも……」
僕が、言いかけた時――
「私も、リザに賛成ですわ」
マンディが、頷いた。
「え……」
「師匠は――」
マンディが、真剣な表情で言う。
「みんなの希望です」
「師匠が休んだら――」
「みんな、不安になります」
「不安って……」
「ですから」
マンディが、きっぱりと言う。
「師匠には、休んでいただけません」
「……」
僕は、絶句した。
「ちょ、ちょっと待ってください……」
僕は、必死に説明する。
「師匠だって、人間ですよ?」
「休みが、必要です」
「必要ありません」
リザが、即答した。
「いや、あります!」
僕が、反論する。
「師匠、毎日――」
「式典、会議、表彰……」
「休む暇もないじゃないですか!」
「それが――」
リザが、真剣に言う。
「師匠の使命です」
「使命って……」
「師匠は――」
リザが、目を輝かせる。
「選ばれた方です」
「聖典にも、記されています」
「『光を纏いし者、民を導く』と」
「いや、それ……」
僕が、言いかけた時――
「その通りですわ」
マンディが、頷く。
「師匠は、導く者」
「ですから、休むことは――」
「許されません」
「許されないって……」
僕は、頭を抱えた。
(これ……どうすれば……)
「あの」
セラが、口を挟む。
「僕は、ルークの意見も――」
「一理あると思う」
「セラ!」
僕は、希望を見出した。
「師匠も、人間だ」
セラが、冷静に言う。
「適度な休息は、必要だろう」
「そうです!」
僕は、セラに同意する。
「だから――」
「しかし」
セラが、続ける。
「今は、休むタイミングではない」
「え……」
「師匠の影響力は――」
セラが、真剣に言う。
「王国の安定に、直結している」
「今、休んだら――」
「政治的に、問題が生じる」
「政治的……」
僕が、呆然とする。
「ですから――」
セラが、結論を出す。
「休みは、後日――」
「適切なタイミングで、検討しましょう」
「後日って……いつですか?」
「それは――」
セラが、考える。
「半年後、くらいかな」
「半年!?」
僕は、叫んだ。
「あの……」
師匠が、小さく手を上げる。
「私の意見は……?」
「師匠!」
リザが、振り向く。
「もし、ご不満があれば――」
「いつでも、おっしゃってください」
「不満、というか……」
師匠が、言いかけた時――
「私たち」
マンディが、目を輝かせる。
「もっと、頑張りますから!」
「え……」
師匠が、困惑する。
「師匠が満足できるよう――」
リザが、拳を握る。
「もっと、サポートを強化します!」
「いや、それ……」
師匠が、言いかけた時――
「具体的には――」
セラが、別の書類を取り出した。
『師匠サポート強化計画』
「……」
師匠の顔が、青ざめた。
「これは――」
セラが、読み上げる。
「師匠の移動時間を短縮するため――」
「専用馬車を、3台に増やします」
「さらに――」
「食事の準備時間を短縮するため――」
「専属シェフを、5名雇います」
「……」
師匠が、完全に固まった。
「これで――」
リザが、満足そうに言う。
「師匠の負担が、減りますわ!」
「負担って……」
師匠が、虚ろな声で呟く。
「増えてる気が……」
「え?」
リザが、きょとんとする。
「何か、おっしゃいましたか?」
「……何でもないわ」
師匠が、力なく微笑んだ。
僕は――
その様子を見て――
絶望した。
(これ……逆効果だ)
師匠を休ませようとしたのに――
逆に、サポートが強化されてしまった。
「……」
(どうすれば……)
会議が終わった後。
僕は、廊下で――
師匠に、謝った。
「すみません、師匠……」
「ん?」
師匠が、不思議そうに訊ねる。
「何が?」
「僕……」
僕は、項垂れる。
「師匠を休ませようとしたのに……」
「逆に、負担を増やしてしまって……」
「……」
師匠が、しばらく――
黙っていた。
そして――
小さく、笑った。
「ありがとう、ルーク」
「師匠……?」
「あなたの気持ち――」
師匠が、優しく言う。
「すごく、嬉しかった」
「でも……」
「いいのよ」
師匠が、首を横に振る。
「あの子たちは、悪気ないから」
「……」
「ただ――」
師匠が、苦笑する。
「善意が、重いだけ」
「善意……」
「ええ」
師匠が、頷く。
「あの子たちは、本気で――」
「私のためだと、思ってる」
「だから――」
師匠が、遠い目をする。
「どうしようもないのよ」
僕は――
何も言えなかった。
(善意が、師匠を縛ってる……)
それは――
誰も、悪くない。
でも――
誰も、止められない。
「……」
(これ、どうすれば……)
「ルーク」
師匠が、僕を見る。
「あなたは――」
「十分、頑張ったわ」
「でも、師匠……」
「いいのよ」
師匠が、微笑む。
「あなたが、味方でいてくれるだけで――」
「私、救われるから」
「……」
僕は、涙が出そうになった。
その日の夜。
クラン拠点の会議室では――
リザとマンディが――
『師匠サポート強化計画・改訂版』を、作成していた。
「専用馬車を3台から――」
リザが、書き込む。
「5台に、増やしましょう」
「賛成ですわ!」
マンディが、目を輝かせる。
「さらに――」
「専属シェフを5名から――」
「10名に!」
「素晴らしい!」
リザが、拍手する。
「これで、師匠の負担が――」
「もっと、減りますわ!」
セラが――
その様子を見て――
小さく呟いた。
「……これ、逆効果な気がするんだが」
だが――
二人には、聞こえなかった。
「師匠のために!」
「「頑張りましょう!」」
翌日。
師匠に――
『師匠サポート強化計画・改訂版』が、提出された。
「……」
師匠は、書類を見て――
完全に、固まった。
「専用馬車、5台……?」
「はい!」
リザが、誇らしげに言う。
「これで、移動が楽になりますわ!」
「専属シェフ、10名……?」
「はい!」
マンディが、頷く。
「これで、いつでも美味しい食事が食べられます!」
「……」
師匠の魂が――
抜けた。
「さらに――」
リザが、続ける。
「専属メイドを20名――」
「ちょっと待って」
師匠が、必死に止める。
「これ以上は……」
「ご安心ください!」
リザが、にこやかに言う。
「全て、王国が費用を負担してくれます!」
「費用の問題じゃなくて……」
「師匠」
マンディが、真剣な表情で言う。
「あなたは、もっと――」
「自分を大切にしてください」
「……」
師匠が、小さく呟いた。
「大切にしてるわよ……」
「だから、静かに暮らしたいの……」
「え?」
リザが、きょとんとする。
「何か、おっしゃいましたか?」
「……何でもないわ」
師匠が、力なく微笑んだ。
僕は――
その様子を見て――
心の中で叫んだ。
(これ、完全に……逆だ!)
師匠を楽にしようとすればするほど――
逆に、師匠を縛ってしまう。
これが――
善意の牢獄。
「……」
(どうすれば、師匠を……)
答えは――
まだ、見つからなかった。
――第6章第4節、完。
ルークは、師匠を休ませようとした。
だが――
リザが、即座に却下した。
「師匠は王国の宝です」
「休ませるわけにはいきません」
マンディも、同意した。
「師匠は、みんなの希望です」
セラも、政治的理由で反対した。
そして――
『師匠サポート強化計画』が、作成された。
専用馬車5台。
専属シェフ10名。
専属メイド20名。
すべて――
善意100%。
だが――
それが、師匠を――
もっと、縛っていく。
ルークの努力は――
完全に、逆効果だった。
善意の牢獄は――
どんどん、強固になっていく。
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