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ただの悪役令嬢"声優"は静かに暮らしたい ― 超有能な勘違い弟子令嬢から溺愛されて逃げられません ―  作者: 荒瀬 維人
第6章:公務・式典・称賛という名の牢獄

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第1節:貴族の宴、振る舞いが"聖女ムーブ"

(しのぶ視点)



王国公式クランに認定されてから、二週間が経った。



私の生活は――



完全に変わった。



毎日、会議。



毎日、式典。



毎日、表彰。



「……もう、嫌だ」



私は、控室で呟いた。



今日は――



王国貴族院主催の晩餐会。



公式クランとして、招待された。



「師匠、準備はよろしいですか?」



リザが、扉をノックする。



「……ええ」



私は、ため息をつく。



そして――



鏡を見た。



白いドレス。



金の刺繍。



ティアラ。



完全に、聖女の格好だ。



「……はぁ」



深いため息が、出た。





*  *  *





王宮の大広間。



シャンデリアが、煌びやかに輝いている。



貴族たちが、華やかな衣装で集まっている。



「すごい……」



ルークが、目を輝かせる。



「これが、貴族の晩餐会……」



「ルーク」



セラが、小声で注意する。



「あまり、キョロキョロしないように」



「あ、はい……」



ルークが、慌てて姿勢を正す。





「それでは――」



司会が、声を上げた。



「本日の主賓――」



「王国公式クラン《黒薔薇の園》クランマスター――」



「シルヴィア・ド・ノワール様の、ご入場です」





音楽が、流れ始めた。



私は――



優雅に、歩き始める。



(演技、演技……)



私は、心の中で呟く。



(笑顔を作って、優雅に歩く)



(ただの声優、ただの演技……)





大広間の中央に、立つ。



貴族たちの視線が、一斉に集まる。



「……」



私は、微笑んだ。



優雅に、一礼する。



「本日は、お招きいただき――」



「ありがとうございます」





その瞬間――



会場が、どよめいた。



「なんと、気品のある……」



「まさに、聖女様……」



「声までも、美しい……」





(え……)



私は、困惑した。



(普通に挨拶しただけなのに……)





「シルヴィア様、こちらへ」



侍従が、上座に案内する。



「……はい」



私は、席に着いた。



その瞬間――



また、どよめきが起きた。



「座る姿まで、優雅……」



「流石、聖典の化身……」



「……」



私は、内心で叫んだ。



(座っただけよ! ただ座っただけ!)





*  *  *





晩餐会が、始まった。



料理が、次々と運ばれてくる。



「すごい……」



ルークが、小声で呟く。



「こんな豪華な料理、初めて見た……」



「静かに」



セラが、たしなめる。





私は――



料理に、手を伸ばした。



フォークを持つ。



ナイフで、切り分ける。



口に運ぶ。





ただ、それだけ。



普通に、食べているだけ。



だが――



周囲の貴族たちが――



**じっと、見ている。**



「……」



(な、何……?)



私は、不安になった。



(普通に、食べてるだけなのに……)





「見ましたか」



誰かが、囁く。



「あのフォークの持ち方……」



「完璧ですわ……」



「ナイフの角度まで、美しい……」



「……」



私は、固まった。



(食べ方まで、監視されてる……!)





そして――



私が、グラスに手を伸ばした時。



「あ……」



誰かが、息を呑んだ。



「グラスを持つ手……」



「指の角度が、完璧……」



「まるで、舞うよう……」



「……」



私の手が、震えた。



(もう、無理……)





だが――



止まるわけにはいかない。



私は、グラスを持ち上げる。



唇に、運ぶ。



一口、飲む。



グラスを、下ろす。





「……」



会場が、静まり返った。



そして――



誰かが、拍手した。



パチパチパチ……



「素晴らしい……」



「完璧なマナー……」



「これが、聖女の振る舞い……」





拍手が、広がっていく。



「……」



私は、絶望した。



(飲んだだけよ! ただ水を飲んだだけ!)





*  *  *





晩餐が終わり――



社交の時間になった。



貴族たちが、私に近づいてくる。



「シルヴィア様」



中年の貴族が、深々と頭を下げる。



「お話しできて、光栄です」



「いえ、こちらこそ」



私は、優雅に微笑む。



(早く終わって……)



「シルヴィア様は――」



貴族が、訊ねる。



「どのようにして、あのような気品を身につけられたのですか?」



「え……」



私は、困惑した。



「気品、ですか?」



「はい」



貴族が、真剣な表情で言う。



「あの完璧なマナー、振る舞い――」



「一朝一夕で身につくものではありません」



「……」



(ただの、声優の演技なのに……)



私は、内心で呟く。



だが――



それは、言えない。



「特別なことは、していませんわ」



私は、優雅に答える。



「ただ、自然に――」



「自然に……!」



貴族が、感動した様子で言う。



「やはり、生まれながらの気品……」



「いえ、そういうわけでは……」



「素晴らしい……」



貴族が、深々と頭を下げる。



「ありがとうございました」





そして――



貴族は、去っていった。



「……」



私は、ため息をついた。



(何を、ありがとうされたの……?)





その時――



別の貴族が、近づいてきた。



「シルヴィア様」



若い女性貴族だ。



「あの……一つ、お伺いしてもよろしいですか?」



「ええ」



私は、微笑む。



「どうぞ」



「シルヴィア様は――」



女性が、恥ずかしそうに訊ねる。



「どうすれば、そのような……美しい笑顔を、作れるのですか?」



「笑顔……?」



「はい」



女性が、頷く。



「あの、優雅で、温かくて――」



「まるで、聖女様のような笑顔……」



「……」



私は、困惑した。



(これ、ただの営業スマイルなんだけど……)



声優時代――



イベントで、何百回も作った笑顔。



それが――



「聖女の笑顔」として、崇められている。



「特別なことは、ありませんわ」



私は、優雅に答える。



「ただ、心から――」



「心から……」



女性が、目を輝かせる。



「そうですわね、やはり心が大切……」



「ありがとうございます、シルヴィア様!」



女性が、深々とお辞儀をする。



そして――



去っていった。



「……」



私は、小さく呟いた。



「何も、教えてないのに……」





*  *  *





それから――



次々と、貴族たちが話しかけてきた。



マナーについて。



振る舞いについて。



気品について。



笑顔について。



すべて――



私の"演技"を、本物だと思っている。



「……」



私は、疲れた。



(もう、限界……)



だが――



止まるわけにはいかない。



私は、微笑み続ける。



優雅に、答え続ける。





そして――



ついに、晩餐会が終わった。



「本日は、ありがとうございました」



私は、優雅に一礼する。



「お気をつけて、お帰りくださいませ」





その瞬間――



会場全体が――



一斉に、跪いた。



「「「シルヴィア様、ありがとうございました」」」



「……!」



私は、固まった。



(な、何……これ)





「師匠」



リザが、誇らしげに言う。



「素晴らしかったですわ」



「完璧な、聖女の振る舞いでした」



「聖女って……」



私が、言いかけた時――



「本当に」



マンディも、頷く。



「あの気品、あの優雅さ……」



「まさに、聖女様そのものでした」



「……」



私は、言葉を失った。





そして――



控室に戻った後。



私は――



ソファに、倒れ込んだ。



「……疲れた」



「お疲れ様でした、師匠」



リザが、お茶を差し出す。



「ありがとう……」



私は、力なくお茶を受け取る。





「師匠」



セラが、真剣な表情で言う。



「今日の晩餐会――」



「完璧でした」



「……」



私は、虚ろな目でセラを見る。



「貴族たちの反応を見ましたか?」



セラが、続ける。



「みんな、師匠に感動していました」



「感動って……」



私が、呟く。



「私、何もしてないのに……」



「いえ」



セラが、首を横に振る。



「師匠は、**存在するだけ**で――」



「人々に、希望を与えています」



「……」



私は、絶望した。



(存在するだけで、って……)





その時――



扉がノックされた。



「失礼します」



侍従が、入ってくる。



「シルヴィア様」



「はい……」



私は、力なく答える。



「本日の晩餐会について――」



侍従が、書類を差し出した。



「貴族院から、感謝状が届いております」



「感謝状……?」



「はい」



侍従が、読み上げる。



『シルヴィア・ド・ノワール様の気品ある振る舞いに感謝し――』



『ここに、王国貴族院最高名誉賞を授与する』



「……」



私の魂が、抜けた。



「最高名誉賞……?」



「はい」



侍従が、にこやかに言う。



「貴族院史上、初めての授与です」



「……」



私は、完全に――



絶望した。



(食べて、飲んで、笑っただけなのに……)



(なんで、賞が……)





「おめでとうございます、師匠!」



リザが、目を輝かせる。



「素晴らしいですわ!」



マンディも、拍手する。



「流石、師匠……」



「……」



私は、何も言えなかった。





そして――



小さく、呟いた。



「……静かに暮らしたいだけなのに」





だが――



その声は――



誰にも、届かなかった。





*  *  *





その夜。



王都の新聞には――



『聖女の晩餐――貴族院、史上初の最高名誉賞授与』



という見出しで――



私の写真が、一面に掲載された。





記事には――



私の「完璧なマナー」「気品ある振る舞い」「聖女のような笑顔」が――



詳細に記されていた。





「……もう、嫌だ」



私は、新聞を見て――



ベッドに倒れ込んだ。



「何もしてないのに……」



「なんで、こんなことに……」





そして――



小さく、呟いた。



「誰か……助けて」





だが――



その願いは――



誰にも、聞こえなかった。





――第6章第1節、完。



貴族の宴。



師匠は、普通に振る舞っただけ。



だが――



そのすべてが、「聖女ムーブ」として解釈された。



食べ方、飲み方、笑顔――



すべてが、賞賛の対象になった。



そして――



貴族院史上初の最高名誉賞が、授与された。



師匠の演技は――



もはや、本物として認定された。



「静かに暮らしたい」



その願いは――



また一つ、遠ざかった。

最後までありがとうございました!


楽しんでいただけたら、

評価やブックマークを入れてもらえるととても嬉しいです。


反応があると更新速度が上がります(重要)

コメント頂ける方はマナーとして好きな声優さんかVtuberを必ず記入してください(超重要)


それでは次回の更新をお楽しみに

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