エピローグ:聖王都の夜、静かな本音
その夜。
私たちは王宮に招かれていた。
祝祭の余韻が街を包み、聖王都ルミナスは異様なほど明るい。
人は恐怖を乗り越えると、必要以上に祝う。
それは、生き残ったことを確かめるための儀式なのだと、声優時代に読んだ心理学の本に書いてあった。
「よくやってくれた、《黒薔薇の園》」
国王は玉座から立ち上がり、深く頷いた。
形式的な称賛ではない。
この人は、本当に国を背負っている。
「お前たちがいなければ、今夜この国は別の歴史を刻んでいた」
「恐れ入ります」
私は自然に、令嬢の礼を取っていた。
もう、体が覚えている。
「だが――」
国王の声が低くなる。
「枢機卿ツィチェン・イッツァ・アッゲーノは、捕縛されていない。
儀式失敗と同時に、地下回廊から逃げた形跡がある」
「……そうですか」
嫌な予感は、的中するものだ。
「邪神信仰は、これで終わらない。
そして――お前の存在も、もはや隠しきれん」
国王の視線が、私に向く。
「シルヴィア・ド・ノワール。
お前は、宗教、王権、民意――すべての交差点に立ってしまった」
(最悪のポジションだ……)
私は内心でため息をついた。
「安心しろ。無理に縛るつもりはない」
国王は、少しだけ柔らかく微笑んだ。
「だが、王国としては――お前を“守る理由”ができた」
守る。
それは、同時に監視でもある。
「今後、《黒薔薇の園》は、半公的な立場になるだろう」
「……分かりました」
断れる立場ではない。
分かっていた。
謁見が終わり、私たちは王宮の庭に出た。
夜風が、ようやく肌に心地いい。
「師匠」
リザが、少しだけ照れたように言う。
「……すごかったです。今日の高笑い」
「やめてちょうだい」
私は肩をすくめる。
「本当は、叫びたかっただけなのよ。
“やめろ”って」
「でも、止まりました」
セラが静かに言った。
「邪神も、枢機卿も」
マンディが腕を組み、頷く。
「結果がすべてだ。
師匠は、間違ってなかった」
(だから、その“師匠”って呼び方を……)
そう言いかけて、私はやめた。
今さら直しても、どうにもならない。
少し離れた場所で、ルークが夜空を見上げている。
私は、自然とそこへ歩いた。
「星、綺麗ね」
「はい。
でも……今日は、ちょっと違って見えます」
「どう違うの?」
「近い、というか……
触れそう、というか」
私は小さく笑った。
「それ、舞台に立った後と同じ感覚よ」
「舞台……?」
「観客と、距離がなくなる瞬間」
ルークは、少し考えてから言った。
「師匠は……本当は、こういうの、望んでないですよね」
私は、足を止めた。
「どうして、そう思うの?」
「たまに……全部が終わったあと、
すごく遠くを見る顔をするから」
……よく見てる。
「ええ」
私は、正直に答えた。
「本当は、静かに暮らしたかった」
「……」
「小さな家で、花を育てて、
台本を読んで、たまに声を出して――それだけでよかった」
ルークは、黙って聞いている。
遮らないところが、この子のいいところだ。
「でもね」
私は夜空を見上げた。
「今は、悪くないとも思ってる」
「それは……?」
「あなたたちがいるから」
ルークが、驚いたように私を見る。
「勘違いも、面倒も、騒動も多すぎるけど……
一人じゃないっていうのは、思った以上に強い」
しばらく、沈黙。
「……師匠」
「なあに?」
「その静かな暮らし。
もし、いつかできるとしたら――」
ルークは、少し照れたように言った。
「僕も、庭仕事、手伝っていいですか」
私は、思わず吹き出した。
「ええ、歓迎するわ。
ただし、雑草取り担当ね」
「それはひどい……!」
二人で、笑った。
高笑いじゃない、普通の笑い。
その瞬間だけ。
私は、本当に“静か”だった。
遠くで、鐘が鳴る。
祝祭の終わりを告げる音。
第一部は、ここで終わる。
邪神は退けられ、
枢機卿は闇に消え、
《黒薔薇の園》は、伝説になった。
そして――
静かに暮らしたい声優は、
今日もまた、騒がしい世界の中心に立っている。
それでも。
高笑いの裏にある本音を、
仲間が知っているなら――
悪くない。
物語は、ここから次の章へ進む。
第二部――
勘違いは、さらに大きく、さらに深く。
そしてたぶん。
もっと、逃げられなくなる。
これにて第一部終了になります。最後までありがとうございました!
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