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ただの悪役令嬢"声優"は静かに暮らしたい ― 超有能な勘違い弟子令嬢から溺愛されて逃げられません ―  作者: 荒瀬 維人
第5章:聖王都と枢機卿

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第3節:邪神信者の影、復活の兆し

夕刻。


大神殿の回廊は、黄金色の光で満たされていた。


日が傾くと、ステンドグラスは「色」をやめて「刃」になる。


赤は血のように濃く、青は深海のように暗い。


この場所は美しい。


だからこそ、隠し事がよく似合う。



私たちは控室に通された。


壁は白く、床は磨かれ、香は強い。


ただし空気だけは、なぜか湿っている。


汗の湿り気ではない。


秘密が呼吸する湿り気だ。



「師匠、大丈夫ですか?」



ルークが訊ねてくる。


真っ直ぐな声。真っ直ぐな瞳。


真っ直ぐはときに、迷路を切り裂く糸になる。



「ええ、大丈夫よ」



私は微笑む。


けれど、微笑みの裏に置いた不安が、どんどん増殖していた。



「……変ですね」



セラが、眼鏡の位置を直しながら小さく呟く。


彼は賢い。賢さは光だが、光は影も作る。



「何が?」



リザが即座に反応する。


剣士の反射神経は、会話でも速い。



「枢機卿の様子です。あまりにも……熱心すぎる」



マンディが鼻で笑った。



「熱心なのは聖職者として正しいんじゃないか?」


「熱心にも種類があります」



セラは淡々と言う。



「祈りの熱心さと、欲望の熱心さは似ていますが、匂いが違う」



匂い。


確かに。


枢機卿の周りには薔薇の香があった。


けれどそれは花の香りというより、香水の主張だった。


誤魔化すための香り。



「師匠も、そう思いますか?」



リザが私を見る。


私は頷いた。



「ええ。何か裏がある気がするの」



その時、扉がノックされた。


控えめな音。控えめすぎる音。


控えめは、恐怖の仮面になる。



「失礼します」



入ってきたのは若い神官だった。


頬は青白く、目の下には影。


法衣はサイズが合っていない。


整っていない者は、だいたい真実を抱えている。



「あの……シルヴィア様」



声が震えている。


震える声は、嘘をつくには不向きだ。



「私、少しお話が……」


「どうぞ」



私は椅子を勧めた。


神官は座るまでに三拍、ためらった。


ためらいは、口を開くための勇気を蓄える動作だ。



「あ、ありがとうございます……」



彼は手を組み、指先を白くする。



「枢機卿様が……おかしいんです」


「……おかしい?」



リザの目が鋭くなる。


マンディは拳を握り、ルークは背筋を伸ばす。


セラだけが、呼吸を一つ深くした。


理解が早い者の呼吸だ。



「最近、夜な夜な禁書庫に籠もっているんです」


「禁書庫……」


「ルミナス教で封印された危険な書物が保管されている場所です」



神官は、唾を飲み込んだ。



「そして……邪神について調べているらしいんです」



沈黙が落ちた。


沈黙は重い。


けれど重い沈黙は、ときに真実の形を教えてくれる。



「邪神……?」



ルークの声が掠れる。


少年の恐怖は、まだ透明で、よく透ける。



「かつてルミナス教によって封印された邪悪な神……」



神官は怯えた表情で続けた。



「その復活を企んでいるのではないかと……」



私の背筋が、冷えた。


宗教の中で「神」を取り換えるのは、国家を取り換えるより簡単で、より残酷だ。


民の信仰が向く先が変われば、民は自分から檻に入る。


神官は私を見つめ、声を絞り出した。



「今夜の儀式……聖なる笑みの儀式は、邪神復活の儀式の一部ではないかと……」



私は息を止めた。


私の笑いが、引き金になる。


あまりに馬鹿げていて、あまりにありそうだった。



「シルヴィア様の高笑いを利用して、邪神を呼び戻そうとしているのかもしれません……」



リザが私の横に一歩寄った。


剣士が人を守るときの距離。


マンディも同じように身を前へ。


ルークは震えを隠すために剣の柄を握る。


セラは、すでに頭の中で対策を組み立てている顔だった。



「師匠……どうしますか?」



リザの問いは、剣より真っ直ぐだった。


私は考えた。


証拠はない。


しかし、この場所の空気は証拠より雄弁だ。


香り、間、熱心さ、冷たい手。


すべてが同じ方向を指している。



私は静かに頷いた。



「とりあえず、儀式には参加します」


「参加するんですか!?」



ルークが叫びそうになり、リザが手で制する。



「ただし、警戒は怠らない。おかしいと思ったら、すぐに止める」


「了解しました」



リザが短く答えた。


マンディは拳を鳴らす。


セラは眼鏡の奥で、冷たい光を宿す。


ルークは一度だけ唇を噛んで、そして頷いた。


神官は、泣きそうな顔で頭を下げた。



「ありがとうございます……どうか、ご無事で……」



彼が去った後、控室はまた静かになった。


けれど静けさは、安堵ではなく、嵐の前の息継ぎだった。



夜が来る。


祝祭の夜。


光は眩しく、影は濃くなる。



私は自分の喉に手を当てた。


ここから出る音が、祈りにも呪いにもなる。


そんな馬鹿な話が、今夜だけは現実になりそうで。



「師匠」



リザが囁く。



「笑うのは、武器ですわ」



私は彼女を見る。



「武器っていうのはね、振るう人の心まで切ることがあるの」



リザは瞬きをして、少しだけ困ったように笑った。



「でも、師匠の笑いは……私たちの灯りです」



灯り。


灯りは暗闇を消せない。


ただ、暗闇の輪郭を見せるだけだ。


けれど今夜は、その輪郭が分かるだけでも救いだった。

最後までありがとうございました!


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