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異世界に転生したけど、スキルが「いいね」でした

掲載日:2025/12/28

 気がついたら、白い空間にいた。


 真っ白な空間に、カウンターが一つ。


 まるで無機質なオフィスのような——奇妙な空間だ。


「やあ、いらっしゃい」


 カウンターの向こうに、誰かが立っている。


 ——神様?


 いや、神様にしては……なんというか……。


 サイズの合っていない、とんがり帽子。

 星柄のマント。

 「MAGIC」と刺繍された、チープな杖。


 ——胡散臭い。


「あ、これ私の趣味じゃないから。上層部が決めた制服なんだよね」


 俺の視線に気づいたのか、神様らしき存在が苦笑した。


「えーと……俺、死んだんですか?」


「うん。スマホ見ながら歩いてトラックに轢かれた。信号無視」


「……」


 思い出した。


 SNSの通知を確認していたら、信号を見落としたんだ。


 ——最悪の死に方だ。


「まあ、よくあることだよ。最近多いんだ、この手の案件」


 神様が、肩をすくめた。


「私はツクヨ。転生担当の神——というか、転生管理局の担当官みたいなものかな」


「ツクヨ……」


「で、あなたには異世界で第二の人生を送ってもらいます」


「異世界転生!?」


「そう。今期のノルマがあってね。転生者を一定数送り込まないといけないんだ」


 ノルマ……?


 神様にもノルマがあるのか。


「転生者には、特別なスキルを一つ与えることになってる」


 ツクヨが、手をかざした。


「あなたの前世での行動パターンを分析した結果——最適なスキルを選定しました」


 ステータス画面が、目の前に浮かび上がる。


---


【スキル】

・いいね(Lv.1)


---


「……は?」


「『いいね』です。対象に好意的な感情を送るスキル」


「いや、待って。他の転生者って、剣聖とか、魔法適性とか、チートスキルもらうんじゃないの?」


「ああ、それはA級チートね」


 ツクヨが、溜息をついた。


「A級チートは1世紀に50名まで。B級補助チートは200名まで。あなたは……まあ、凡人枠」


「凡人枠!?」


「予算の都合なんだよ。チート付与にはコストがかかるんだ」


 ツクヨが、気の毒そうな顔をした。


「でもね、あなたの前世での最頻行動は『SNSでいいねを押す』だった。一日平均三百回」


「……」


 否定できない。


「そのデータに基づいて、最適なスキルが『いいね』と判定されたわけ」


「戦闘系のスキルは!?」


「ない」


 ツクヨが、きっぱり言った。


「まあ、戦闘には向かないけど……使い方次第では化けるかもよ?」


「えぇ……」


「私もノルマに追われる社畜みたいなもんでさ。全員にチート渡せるほど、予算も権限もないんだよね」


 ツクヨが、苦笑した。


「『前世よりマシ』程度の落としどころが精一杯。でも、逃げ道は用意したから——頑張って」


「ちょっと待っ——」


「あ、困ったら夢の中で呼んで。たまには顔出すから」


 視界が、白く染まった。


---


 気がついたら、草原に立っていた。


 異世界だ。


 中世ヨーロッパ風の街並みが、遠くに見える。


「……マジかよ」


 俺は、自分のステータスを確認した。


---


【名前】ユウキ

【職業】なし

【レベル】1

【HP】10

【MP】5

【攻撃力】3

【防御力】2

【スキル】いいね(Lv.1)


---


 弱すぎる。


 ゴブリンにも勝てなさそうだ。


「いいね、ってどうやって使うんだ……」


 試しに、近くの花に向かって「いいね」と唱えてみた。


 ——何も起きない。


「対象が生物じゃないとダメか」


 俺は、とりあえず街に向かって歩き出した。


---


 街に着いた。


 冒険者ギルドらしき建物を見つけて、中に入る。


「いらっしゃいませ」


 受付嬢が、にこやかに迎えてくれた。


 金髪の美人だ。


「あの、冒険者登録をしたいんですけど」


「かしこまりました。こちらの用紙にご記入ください」


 言われるがまま、用紙に名前を書いた。


 ステータスを測定する水晶に手を当てる。


「……」


 受付嬢が、黙り込んだ。


「あの……」


「失礼ですが……戦闘系スキルをお持ちではない?」


「はい」


「『いいね』……というスキルは、初めて見ますね」


 受付嬢が、困惑した顔をしている。


「冒険者としては……正直、厳しいかと」


「ですよね……」


 俺は、肩を落とした。


 やっぱり、このスキルは使えないのか——


「でも、せっかくですし、登録だけはしておきますか?」


「お願いします」


 受付嬢が、登録証を発行してくれた。


「ありがとうございます」


 俺は、受付嬢に向かって——


 反射的に「いいね」を発動した。


 ——親指を立てるジェスチャーと共に、ハートマークのエフェクトが飛んでいく。


「っ!?」


 受付嬢が、目を見開いた。


「な、なんですか今の……!?」


「あ、すみません、つい——」


「いえ……なんだか、すごく……嬉しいです」


 受付嬢の頬が、ほんのりと赤くなっている。


「なんでしょう……褒められたような、認められたような……不思議な気持ちです」


「え?」


「もう一回、やってもらえますか?」


「え、いいですけど——いいね」


 またハートマークが飛んでいく。


「っ……! ああ……これ、気持ちいい……」


 受付嬢が、うっとりとした表情になった。


「もう一回……」


「いいね」


「ん……っ」


 ——なんか、やばい雰囲気になってきた。


「あ、あの、俺、行きますね」


「え、もう行っちゃうんですか? また来てくださいね! 絶対ですよ!」


 受付嬢が、手を振っている。


 さっきまでの事務的な態度が嘘のようだ。


「……このスキル、効果あるのか?」


---


 それから、俺は「いいね」の効果を検証した。


 道端で困っているおばあさんに「いいね」→ 大量のお礼をもらう


 喧嘩している二人組に「いいね」を連打 → なぜか仲直り


 落ち込んでいる少年に「いいね」→ 元気になって走っていく


「……これ、もしかして便利なスキルか?」


 戦闘には使えない。


 でも——人間関係を円滑にする力がある。


---


 数日後——


 俺は、ある依頼を受けていた。


「勇者パーティーのサポート……?」


「はい。勇者様の演説や、士気向上のお手伝いをしていただきたいのです」


 ギルドの職員が、説明してくれた。


 どうやら、俺の「いいね」スキルの噂が広まったらしい。


「勇者様の演説の後に『いいね』をしていただければ、兵士たちの士気が上がると期待されています」


「なるほど……」


 俺は、勇者パーティーに合流した。


---


「みんな、聞いてくれ!」


 勇者——金髪の青年が、兵士たちの前で演説している。


「我々は、魔王軍と戦う! 人類の未来のために!」


 兵士たちが、静かに聞いている。


 ——反応が薄い。


 勇者の演説は熱いけど、兵士たちは疲れ切っている。


 長い戦いで、士気が下がっているのだ。


「だから——」


 勇者が、言葉に詰まった。


 俺は——


「いいね」


 ハートマークが、勇者に向かって飛んでいく。


「っ!?」


 勇者が、目を輝かせた。


「そうだ! 俺たちは負けない! みんなの想いが、俺の力になる!」


 勇者の声が、力強くなった。


「いいね」「いいね」「いいね」


 俺は、兵士たち全員に「いいね」を連打した。


 ハートマークが、会場中に飛び交う。


「おお……なんだこの気持ちは……!」


「やる気が湧いてきた……!」


「勇者様についていくぞ!」


 兵士たちの顔に、活気が戻っている。


「すごい……」


 勇者が、俺を見た。


「お前、何者だ?」


「ただの『いいね』使いです」


「いいね使い……」


 勇者が、真剣な顔になった。


「俺のパーティーに入ってくれ」


「え?」


「お前の力が必要だ」


 こうして——


 俺は、勇者パーティーの正式メンバーになった。


---


 魔王城——


 俺たちは、ついに魔王の前にたどり着いた。


「ふん……来たか、勇者よ」


 魔王が、玉座に座っている。


 黒い鎧。赤い瞳。威圧的なオーラ。


「今日こそ、お前を倒す!」


 勇者が、剣を構えた。


「やれるものならやってみろ」


 魔王が、立ち上がった。


 ——強い。


 圧倒的な魔力が、部屋中に満ちている。


 勇者たちが、次々と攻撃を仕掛ける。


 でも——


「無駄だ」


 魔王の防御を、突破できない。


「くっ……」


 勇者が、膝をついた。


 仲間たちも、倒れていく。


 ——やばい。


 このままじゃ、全滅する。


 俺に、何ができる?


 戦闘スキルは、ない。


 あるのは——


「……いいね、しかないか」


 俺は、魔王に向かって——


「いいね」


 ハートマークが、魔王に向かって飛んでいく。


「っ!?」


 魔王が、目を見開いた。


「な、なんだこれは……」


「いいね」


「や、やめろ……」


「いいね」「いいね」「いいね」


 俺は、連打した。


 ハートマークが、魔王に降り注ぐ。


「っ……! く、くすぐったい……!」


 魔王が、身をよじった。


「やめろ……やめてくれ……!」


「いいね」「いいね」「いいね」


「ひっ……! なんだこれ……! 認められている……! 褒められている……!」


 魔王の顔が、赤くなっている。


「誰も……誰も俺のことを認めてくれなかった……! 人間も、魔族も……!」


 魔王の目から、涙が溢れた。


「なのに……お前は……!」


「いいね」


「っ……!」


 魔王が、膝をついた。


「もう……いい……降参だ……」


「え?」


「お前の勝ちだ……勇者よ……いや、いいね使いよ……」


 魔王が、両手を上げた。


「俺は……ただ、認められたかっただけなんだ……」


 ——まさかの、戦闘終了。


---


 後日談——


「というわけで、魔王は改心しました」


 王様の前で、勇者が報告している。


「魔王軍は解散し、魔族と人間の和平条約が結ばれました」


「素晴らしい! さすが勇者よ!」


「いえ……俺じゃありません」


 勇者が、俺を見た。


「この男が——『いいね』で魔王を倒したんです」


「いいね……?」


 王様が、首を傾げた。


「はい。『いいね』というスキルで、魔王の心を開いたんです」


「……よく分からんが、とにかく世界は救われたのだな?」


「はい」


 王様が、俺に向かって言った。


「お前を、英雄として称えよう!」


「ありがとうございます」


 俺は——


 王様に「いいね」を送った。


「おお……! なんだこれは……! 気持ちいいぞ……!」


 王様が、うっとりとした表情になった。


「もっとくれ……もっと……!」


「陛下、しっかりしてください」


 大臣が、慌てて止めに入った。


---


 こうして——


 俺は、「いいね」で世界を救った。


 史上初の、非戦闘系勇者として。


 SNS依存だった前世の経験が——


 まさか、異世界で役に立つとは思わなかった。


 今日も俺は、異世界の人々に「いいね」を送り続ける。


 だって——


 「いいね」は、人を幸せにする。


 それが、俺の新しい人生だ。


(完)


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