綺麗な世界の君と、地味な世界の僕
「な、淀ちゃん。私な、いつかはアイドルの世界に立ちたいねん」
▪▪▪
僕の名前は、淀川のれん。いたって普通の会社員。
今朝のニュース番組を観ていたら、懐かしい人が映っていた。
―――彼女の名前は、須加朋絵。保育園からの腐れ縁の人だ。
なぜ彼女が映っていたか、それは彼女が『地元の個人アイドル』としてデビューするらしい。
「あいつ、本当にアイドルになったんや」
そう僕が呟くと同時に、携帯にメールが受信する。
そこには彼女のメルアドからだ。
『あの時の約束、果たしたで。ほんだら、約束通りに―――』
▫▫▫
僕と彼女が交わした約束。
それは彼女が「アイドルを目指したい」と話した高校3年の2月、教室内会話まで遡る。
「……あ?アイドルだぁ、お前がかぁ?」
と僕は彼女に言う。
「なんやあ、その言い方!うちがアイドル大好きやって、知ってたやんか!」
「いや、まあ……そうだけどさ」
彼女は席に座る。
「うちな、今年……推しの卒業ライブに行ってきたんよ」
「あー、夏休みのか」
僕が言うと、彼女は頷く。
「それでな、最後の最後……いい笑顔で、幕を閉じたんよ。『最後までやり切りました』って感じで。それが、ずーーっと残ってて、いつの間にか、『アイドルをやってみたい』になってたん」
「んー、どゆこと!?」
「ど、どゆことって言わんってよ。私もあのキラキラした世界に入って、やり切りたい……そう、そう思ったん」
僕は彼女の方を見る。
……右耳の裏を人差し指で掻いている。本当にやりたい事を伝えている時の動作だ。
「……お前、僕がこの高校に入りたいって言ったときの事を思い出したわ。それくらい、アイドルになりたいってか」
彼女は顔を少し赤らめて、少し頷いた。
「まぁ、やるだけやってみればええ。その代わり、1つだけ約束」
「な、なんや……?」
僕は彼女の肩を叩く。
「ぜってぇ、なってくれよな。俺が最初のファンになってやっから」
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メールを眺めながら、そんな事を思い出していた。
その文の最後にはこう綴られている。
『今度のファースト公演、マネージャーに頼んで一番いい席を特別に用意したで。そん時はよろしゅうなー!』
それを見た僕は、嬉しながらも何故か涙を流していた。
「アイツからすれば、僕は地味な一般人なのに……約束も守らんで良かったのに、アイツは優しいなあ」




