表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

水妖

〈春ならぬ二度寢三度寢秋深し 涙次〉



【ⅰ】


* 村川佐武。通稱佐武ちやん。ふと思ひ出す。父との思ひ出で良かつた事と云へば、幼少時、一緒に風呂に入り、脊中を流してあげた事。それ以外には、思ひ出したくてもその後の叛目が邪魔をする。父は堅氣の仕事、自分と同じく勤め人に佐武を付けたかつたのだけれど、佐武ちやんはフリーランスの自動車デザイナーの道を夢見て、家から出た。仕送りはあつたが、話はしなかつた。その内、佐武ちやんは念願の職を得、父は一人母に看取られ、死んだ。葬式には佐武ちやんは出席しなかつた。



* 前シリーズ第187・200話參照。



【ⅱ】


そんな嚴しい間柄であつたが、今でも父との樂しい入浴の夢を見る。

さて、現在の佐武ちやんの仕事、目黑に構へた中古車販賣店「ギャレエヂM」店主、昨今店頭を飾つてゐるのは、ELEMOs スーパーエレカーゴ。特定小型原付、電動の4輪車だが16歳以上なら免許なしで乘れる。屋根付き、前後に頑丈なカゴを備へていて、雨天の買ひ物にも對応する。シニアの免許返上組にもいゝが、お洒落な町乘りとして、若い人にもお勧めな一品である。まだぴかぴかの新車に近い狀態で、佐武ちやん仕入れて來た。ボディの色は白である。



【ⅲ】


尾崎一蝶齋がぶらり、店を訪れた。「あら、尾崎さん、珍しいわね」-「こいつ(スーパーエレカーゴを指して)が出てゐると聞いてね」。尾崎は脚に故障を抱へてゐる。何時だつたか、カンテラ一味の* 近未來をご紹介した時、尾崎は杖を突いてゐた。このスーパーエレカーゴなら、中野區新井藥師の尾崎の宅から、野方のカンテラ事務所までの通勤に丁度良い。



* 当該シリーズ第74話參照。



※※※※


〈藥待つ時ひとゝきの長きかな優しくしてりやつけあがる俺 平手みき〉



【ⅳ】


尾崎は即金でそのブツを買つた。50萬(圓)程の値が付いてゐたが、尾崎には* アルバイトの収入があつた。「有難ねー」悠然と立ち去る尾崎を見送り、佐武ちやん「パパに似てるわ。脊がすらつとして、髪はロマンスグレーの澁いをぢ様。お風呂で脊中流したくなるタイプね」と思ひ、何となく胸がときめいた。



* 当該シリーズ第117話參照。



【ⅴ】


だがその胸の内に思つてゐる事、一つ障害があつた。佐武ちやん、浴槽の中でつひ眠つてしまふのである。ぬる湯がいけないのかと思ひ、給湯の温度を上げてみた。すると茹で蛸狀態で目が醒める。「いやあね、あたしも歳かしら」。だが、カンテラとそんな話をしたところ、「【魔】の臭ひがするな」との事。カンテラはテオにデータを集めさせた。「出ましたよ、やはり【魔】の疑ひがありますね。風呂場でのお年寄り以外の孤獨死が最近増加してゐる。その殆どが【魔】のせゐださうです」



【ⅵ】


「あらまた【魔】なの?」-「だうやらヒートショックを狙ふ【魔】がゐるらしいんだ」-「カンちやん、そいつ退治してよ。おカネなら彈むわよ。あたし怖いわ」-「佐武ちやん俺と一緒に風呂入らう」-「お願ひね」


最初こそカンテラの逞しい躰にうつとりとしてゐた佐武ちやんだつたが、その内睡魔が- こつくりこつくりしてゐる佐武ちやんを見て、「こりやいかん」カンテラ呪文を唱へた。「【魔】よ姿を現せ。降魔退散。南無-」すると、ぼんつと音がして、見るからに水の妖魔らしき姿、鱗のびつしり躰を覆つた【魔】が。カンテラ、そいつをバスルームの外に引き摺り出し、全裸の儘、傅・鉄燦の短刀で腹を突いた。「しええええええいつ!!」。【魔】は呻き聲と共に、消えた。



【ⅶ】


佐武ちやん目を醒ます。「殺つたのね、カンちやん」。と云ふ譯で、佐武ちやん、尾崎との入浴の夢を温存出來た。「だけど、夢は夢の儘がいゝのね。さうに決まつてゐるわ」。


父の影を尾崎に見つゝ、佐武ちやん、今日も躰を磨きにかける事に余念がない。やつぱりあたしは美靑年向けなのよ。そんな事をつらつら思ひながら。



※※※※


〈曇天の小春呼んでる晩秋や 涙次〉



何処に潜むとも知れぬ【魔】。貴方も氣を付けて! おあとが宜しいやうで。ぢやまた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ