第8章
三津谷が長野から戻った翌日、久々の職場へ戻る道中、彼の心には少しの緊張と大きな責任感が混じっていた。管制室に入ると、片山が出迎えた。
「お帰り。」
「お世話になりました。父も無事に退院できそうです。」
片山はうなずきながら、「それならよかった。早速だけど、新システムの準備が進んでいる。三津谷が戻ってきて助かるよ。」と肩を叩いた。
三津谷は自分の席に戻ると、周囲を見回した。久しぶりの職場の空気は新鮮で、同僚たちが忙しく働く様子を見て、自分も早く仕事に追いつかなければと感じた。その時、内田が声で声をかけてきた。
「お帰りなさい、三津谷さん!いやあ、ついに戻ってきましたね!これでまたチーム全員揃いましたよ。」
「留守の間、いろいろ迷惑をかけたな。」
「迷惑なんてとんでもない!でも、俺がいなかったら少し大変だったかも?なんて冗談ですけど。」
内田の明るい声に、三津谷は自然と笑みを浮かべた。
さらに篠田も近づいてきて笑顔で声をかけた。
「戻ってきてくれて安心しました、三津谷さん。」
「ありがとう、篠田。皆には本当に感謝しているよ。」
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その日の夕方、片山は真奈美と休憩室で話していた。
「三津谷さん、やっぱり大変だったんですね。」
「そうだな。」
真奈美は頷きながら、「それにしても、また忙しくなりそうですね。新システムの運用開始も間近ですし。」
片山はコーヒーを飲みながら、「初動はトラブルも出るだろうが、皆で乗り切るしかない。」
二人の会話を背後に聞きながら、鈴木は真奈美に声をかけた。「真奈美、さっきのシフト表だけど、確認した?」
「ええ、でも少し修正が必要かもしれません。」
「了解、後で一緒に見直そう。」
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クリスマスを目前に控えたある日、ついに新システムの運用が開始された。
部屋全体に新しいインターフェースの光が反射し、それぞれのセクションで忙しなく作業が進められていた。
佐藤が全員に向けて声を上げた。「よし、いよいよ新システムが動き出す。初日は問題が出るかもしれないが、全員でカバーし合って確実に進めてくれ。」
運用開始直後、片山たちが担当する管制塔のセクションでは航空機のスケジュール調整が始まった。真奈美が画面を指差しながら報告する。
「片山さん、このフライトのデータが少し遅延しています。」
片山は瞬時に状況を把握し、冷静に指示を出した。「真奈美、到着機の経路を再調整してくれ。鈴木は離陸予定の機体に情報を共有して、待機時間を最小化するよう頼む。」
真奈美が素早く指示を実行し、鈴木がパイロットとの交信を始める中、レーダールームでは三津谷がモニターを注視していた。
「片山さん、同期処理の負荷が高まって一時的に遅延が発生しています。データ再送を試みます。」
篠田が即座にフォローし、モニター上の異常データを修正した。「再送完了しました。到着機の順番も調整しています。」
その直後、内田が新たなトラブルを検知した。「システムが一部の出発機データを受け付けていません!」
片山は管制塔から迅速に対応を指示した。「バックアップシステムを立ち上げて、問題箇所を特定する。三津谷、データのリカバリーを優先してくれ。」
三津谷は「了解しました!」と答え、篠田と共に異常箇所の解析を進めた。内田もログを精査しながら可能性のある原因を探っていく。
鈴木が管制塔内で冷静に連絡を取り続ける中、真奈美が復旧状況を確認して片山に報告した。「システムが復旧しました。遅延データも正常化しました。」
片山は安堵の表情を浮かべ、「よし、引き続き監視を続けよう。」と全員に声をかけた。
その後佐藤が、「みんな、いい対応だった。こういう時こそ冷静さが大事だ。引き続き頼む。」と鼓舞した。
業務が一段落した頃、三津谷は篠田に声を掛けた。「篠田、データ整理の手伝いをありがとう。助かったよ。」
篠田は笑顔で答えた。「いえいえ、三津谷さんがいない間、みんなでなんとかカバーしました。」
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その夜、管制塔でもレーダールームでもクリスマスムードが漂っていた。内田が小さなクリスマスツリーを持ち込み、鈴木が軽く文句を言いながらも飾り付けを手伝っていた。
「なんでわざわざツリーを飾るんですか?」
「気分が大事なんだよ、鈴木。」内田は笑いながら答えた。
その時、篠田が上機嫌で足早に帰り支度を始めた。それを見た内田が声を掛ける。「おい、篠田。そんなに嬉しそうにして、どうしたんだ?」
篠田は笑顔で答えた。「内緒です。」
そう言って、篠田は軽快な足取りでその場を後にした。
「絶対男だな、あれは。」
内田が満足げに呟くと、鈴木が即座に突っ込んだ。「内田さん、余計な詮索ですよ。」
内田は笑いながら肩をすくめた。「いやいや、ちょっとした冗談だって。」
三津谷はその光景を見て微笑み、心の中で新たな決意をした。「これからも、この仲間たちと共に乗り越えていこう。」
その後、片山が管制塔を見渡しながら、全員に声を掛けた。「今年もいろいろあったけど、みんなでよく頑張った。」
真奈美が静かに呟いた。
「そうですね。今年も本当にいろいろありましたね。」
外は冷たい風が吹いていたが、管制塔とレーダールームの中は温かな連帯感に包まれていた。




