第5章
8月も終わりの頃、三津谷は夏休みを終えて職場に戻ってきた。明るい表情でデスクに座ると、すぐに真奈美や内田、篠田、鈴木たちが集まってきた。
「三津谷さん、夏休みどうでした?」真奈美が興味津々に尋ねる。
「いやあ、久しぶりに家族でゆっくりできたよ。実家がある長野に行ってきたんだ。」
三津谷はスマートフォンを取り出し、写真を見せ始めた。
「ほら、これが娘の志帆が川遊びをしてるところ。これが妻も一緒に3人で撮った写真。そして、これが親父とお袋だ。」
写真には澄んだ川のほとりで笑顔を見せる志帆や、満面の笑みを浮かべる家族の姿が写っていた。鈴木が感嘆の声を上げた。
「うわあ、自然がいっぱいでいいですね。」
「本当に楽しそうですね。」篠田も頷いた。
内田が少し羨ましそうに言った。「俺もいつか家族旅行がしたいっすよ。」
「それよりもお前はちゃんとした相手を見つけろよ。」三津谷がすかさず言った。
「えー、それじゃ今までちゃんとしてなかったみたいじゃないすか!」
三津谷と内田のやりとりにみんなが笑っていた。
その光景を、片山は少し離れたところから静かに見ていた。
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朝のミーティングでは、佐藤が真剣な表情で議題を切り出した。
「この間発生したネットワーク障害や、去年のサイバーテロの件を受け、新たな管制運用システムを導入することが決まった。より安全性が高く、堅牢なシステムだ。」
佐藤は資料を配りながら続けた。
「この新システムの導入には時間かかり、訓練も必要となってくる。だが運用が安定すれば、現行のシステム以上の効率性と信頼性を提供することが期待されている。みんなには来月からそのためのトレーニングを受けてもらおうと思う。」
真奈美が手を挙げて質問した。「新システムはどのくらいで完全に切り替わる予定ですか?」
「今年中を目処としている。現行システムと並行して運用しながら、安全に移行を進める。」
一同は新たな挑戦に向けて気を引き締めた表情をしていた。
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その日の夜、篠田は事前に申請していた早退のため、定時より早く帰る準備をしていた。真奈美がその姿を見かけて声をかけた。
「篠田さん、今日は早退なんですよね。」
篠田は振り返り、少し照れくさそうに笑った。「うん、ちょっと用事があってね。」
「もしかして、前に話してた片思いの人とデートとか?」
その問いに篠田は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに笑顔に戻り、「内緒。」と言って足早にエレベーターに乗り込んだ。
「えー、気になります!」と真奈美が言うのを後ろに、篠田は手を振りながらエレベーターのドアが閉まった。
真奈美は戻る途中で片山と鈴木に出会った。片山が冷蔵庫から水を取り出し、鈴木はコーヒーを手にしていた。
「片山さん、篠田さんの様子、何か知ってます?」真奈美が尋ねる。
片山は首を振りながら静かに答えた。「さあな。でも、なんだか楽しそうだったな。」
「俺もさっき会ったけど、すごくウキウキだったぞ。」鈴木が付け加えた。
片山は真奈美と鈴木の会話を聞きながら、水を飲んで一息つくと、「まあ、彼女のプライベートに俺たちが首を突っ込むことはないさ。」と軽く笑ってみせた。
「そうですね。」真奈美は片山の言葉に納得し、笑顔を見せた。
夜の管制室は相変わらず忙しく、片山たちはそれぞれの持ち場で業務を続けていた。