第4章
7月も終わりに近づいたある日、片山たちは別のチームとの交代で、通常より早めに業務を終えた。
内田が軽快な口調で三津谷に声をかける。
「三津谷さん、今夜どっかで一杯どうですか?」
篠田も誘いに加わる。
「私も行きたいです。一緒にどうですか?」
しかし、三津谷は申し訳なさそうに頭を下げた。
「悪いな、今日は娘と一緒にご飯を食べるって約束してるんだ。また誘ってくれ。」
そう言うと三津谷は手を振りながら出ていった。内田と篠田は肩をすくめて見送った。
エレベーターに乗り込むと、片山、真奈美、そして三津谷の三人が偶然一緒になった。三津谷が笑いながら口を開いた。
「片山さん、今日は早めに終わりましたね。こんな日がもっと増えればいいんですが。」
片山は頷きながら答えた。
「たしかに。最近忙しかったからな。」
真奈美も話に加わる。
「三津谷さん、今日はもしかして娘さんとご飯ですか?」
三津谷は少し照れくさそうに笑った。
「ああ、娘が楽しみにしてるからな。片山さんも真奈美も、お疲れ様です。」
エレベーターが1階に着くと、三津谷は軽く会釈して足早に立ち去った。
________________________________________
三津谷は京急線に乗り込み川崎駅に到着した。駅から徒歩15分のところにあるマンションへと向かう道中、商店街の明るい光や子どもたちの笑い声が彼の耳に届く。
マンションのエントランスを通り抜け、鍵を回してドアを開けると、5歳になる娘、志帆が玄関まで駆け寄ってきた。
「パパ!おかえり!」
「ただいま、志帆。今日もいい子にしてたか?」
志帆は元気に頷いた。
「おかえりなさい。ちょうどご飯できてるから。」
妻の典子がエプロン姿で台所から顔を出す。三津谷はほっとした表情で靴を脱ぎ、リビングへと向かう。
テーブルの上には、典子が用意した夕食が並んでいた。野菜の煮物、豆腐のおひたし、そして志帆の大好物であるハンバーグがある。
三津谷が椅子に腰を下ろすと、志帆が興奮気味に語り出した。
「パパ、今日ね、幼稚園でスイカ割りしたの!先生がすっごく大きなスイカ持ってきたんだよ!」
「へえ、それはよかったな。ちゃんと当てられたのか?」
志帆は少し照れくさそうに笑った。
「ううん、全然違うところ叩いちゃった。でも友達が当てて、すっごく甘かったの!」
三津谷は志帆の頭を優しく撫で、笑顔を浮かべた。
「じゃあ今度はパパと一緒にやろう。」
典子も微笑みながら、食卓を囲む家族の時間を楽しんでいた。
食事が進む中、典子が話題を切り出した。
「そういえば、夏休みの予定どうする?志帆、おじいちゃんとおばあちゃんのところに行きたいって言ってたよね。」
志帆は目を輝かせて声を上げる。
「うん!長野のおじいちゃんちで川遊びしたい!」
三津谷は腕を組んで考えるふりをした。
「そうだな、そろそろ休みを調整しないとな。おじいちゃんも志帆に会うのを楽しみにしてるだろうな。」
典子が頷き、スマホでカレンダーを確認し始める。
「お盆のあたりが良さそうね。その頃なら、私も調整できそう。」
三津谷は了承し、家族全員で夏休みの計画を立てることに決めた。
夕食後、志帆はリビングで絵本を広げ、三津谷と典子がその傍らで寄り添いながら読んでやる。三津谷の目には、仕事の疲れが癒されていくような家族の温かい光景が映っていた。
________________________________________
その夜、三津谷は眠る前にリビングで明日の業務に備える準備をしていた。
「最近、忙しそうだったけど大丈夫?」と典子が声をかける。
「まあ、これからは繁忙期に入るし、こないだもネットワーク障害で相当バタついたからな。でも、大丈夫だ。」
典子は微笑み、そっと三津谷の肩に手を置いた。
「いつもありがとうね。」
その言葉に三津谷は照れくさそうに笑った。




