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第3章

季節は過ぎ、7月も下旬に差し掛かった。夏の暑さが本格的になる中、羽田空港の管制チームは通常通りの業務を開始しようとしていた。しかし、朝のミーティングが始まろうとした時、管制塔に佐藤が慌ただしい様子で現れた。

「みんな、聞いてくれ。大変な事態になっている。」

佐藤の緊迫した声に、片山たちが一斉に注目した。

「ネットワーク障害が世界規模で発生した。羽田でもチェックインに使うシステムに障害が発生して、国際線ロビーではすでに長蛇の列ができている。」

佐藤の説明に、一同は緊張感を覚えた。

「国内線は今のところ影響は出ていないが、国際線の一部航空会社では既に出発の遅延が始まっている。最悪の場合、欠航もあり得る状況だ。」

その場の空気が一層重くなった。

内田が小声でぼやいた。「前みたいなサイバーテロはもうごめんだと思ってたのに……。」

すると、篠田がすかさず言った。「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。今は一刻も早く対応しないと。」

内田は苦笑しながら「わかってるよ」と返し、気を引き締めた。

管制チームはすぐに対応を開始した。片山が音頭を取り、状況を整理する。

「まず、影響が出ている航空会社の便を優先的に確認しよう。部長、詳細な影響範囲を教えてもらえますか?」

「現在確認できているのは、ユナイテッド航空、デルタ航空、それからブリティッシュエアウェイズの便だ。その他の航空会社も随時確認しているが、まだ確定情報はない。」

片山はすぐに指示を出した。

「鈴木、デルタの便の状況を調べてくれ。真奈美はユナイテッド、内田はブリティッシュを担当してくれ。篠田は他の航空会社にも影響がないか確認して、何か変化があればすぐに報告してくれ。」

三津谷が手を挙げた。「俺はどうする?」

「三津谷は、全体の調整役を頼む。他チームとの連携が必要になるかもしれない。」


________________________________________


空港の混乱ぶりはすさまじかった。国際線ロビーでは、搭乗客たちが行列を作り、職員たちが対応に追われていた。テレビのニュースでは、世界各地で発生している混乱の様子が映し出されている。

「Technosoft社のOSシステム『SKY』の大規模なサーバートラブルにより、世界各国の交通インフラ、銀行、病院、行政機関などが深刻な影響を受けています。」アナウンサーの声が響く。


________________________________________


管制塔内では、情報が次々と飛び込んでくる中、片山たちは冷静さを保ちながら対処を進めていた。

「ユナイテッド航空の便は、搭乗手続きが完全にストップしています。乗客は全員ロビーで待機中ですが、対応に時間がかかりそうです。」真奈美が報告する。

「デルタの便も同じく、遅延が確定しました。乗客たちはピリピリしている様子みたいです。」鈴木が付け加える。

「ブリティッシュは現在、代替システムを使おうとしているんですが、復旧の目処は立っていないそうです。」内田が頭を掻きながら答えた。

片山は腕を組み、考え込む。

「このままだと、空港全体の運行スケジュールが大幅に乱れる可能性があるな。部長、航空会社側と直接連絡を取ることはできますか?」

「もちろんだ。各航空会社の責任者と連絡を取り合っている。可能な限りの支援を行うよう指示しているが、根本的な解決には時間がかかるだろう。」

片山は一息つき、チーム全員に視線を向けた。

「とにかく、今はできることを一つずつ片付けよう。この状況を乗り越えるために、全員で協力していくしかない。」

真奈美が静かに頷き、他の管制官たちたちもそれぞれの持ち場に戻った。


________________________________________


管制塔では片山、山口、鈴木が、乱れた運航スケジュールに対応していた。

「鈴木、次に出発予定のJAL105便は滑走路変更の影響で遅れる。地上誘導を急いで頼む。」

片山が指示を出すと、鈴木は即座に対応に取りかかった。

「了解です、片山さん。ランプエリアの混雑も把握しておきます。」


________________________________________


一方、レーダー室では三津谷、内田、篠田が入域管制の調整を進めていた。

「到着機が増えてきましたね。内田さん、この時間帯、降りる機体の優先順位をどうしますか?」

篠田が到着便のリストを確認しながら尋ねた。

「まずは国際線のロングフライト機を優先だな。JAL815とANA207が燃料ギリギリだから、急がないと。」

内田が冷静に答える。

「了解です。じゃあ、後続の国内線は少しホールドで調整します。」

篠田がフライトプランに入力を始めた。

三津谷が横から追加情報を伝える。

「今、ACC(航空交通管制部)からの情報で、スクワック770があるらしい。優先的に入れる必要が出るかも。」

内田は眉をひそめ、すぐに状況を確認した。

「緊急機か…。篠田、JAL815を最短ルートで降ろす準備をして、ANA207にはさらにホールドをお願いする。」

篠田はすぐに応じた。

「わかりました。そのようにACCにも伝えます。」


________________________________________


昼が過ぎた頃、日本航空でもネットワーク障害の影響が現れ始めた。国内線の運航にも遅延が広がり、片山たちはさらなる対応に追われた。

「JALの国内線でも影響が出始めました。搭乗手続きが完全にストップしている便が複数あるみたいです。」

鈴木が声を上げた。

佐藤が管制室に入ってきた。

「皆、ここが正念場だ。国内線の方はダメージを最小限に抑えたい。空港全体の調整を進めてくれ。」

片山は頷き、再び指示を出した。

「真奈美、ANA204便の到着が遅れる。到着便が集中する時間帯で誘導を調整しないといけない。」

片山が冷静に伝える。

「わかりました。優先順位を見直して対応します。」

真奈美が迅速に計画を立て直した。

空港全体が混乱する中でも、片山たちの冷静な判断と緻密な連携で、大きな混乱を回避することができた。


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夜になり大幅な遅延や欠航もあったものの、ようやく最終便が無事に出発した。

「ANA324便がACCにハンドオフしました。これで最後です。」

真奈美が報告した。

片山たちは安堵の表情を浮かべた。

「何とか終わったな。」

鈴木がデスクに座りながら言うと、真奈美も軽く頷いた。

その時、内田がデスクに戻り、書類作成のためにパソコンを立ち上げた。しかし、画面はブルーのままでフリーズしていた。

「なんだよ、まだ復旧してないのかよ!」

内田が声を荒げる。

「ほんと困りましたよね。」

篠田が内田に同調した。

「仕事にならないよ、これじゃ。」

内田が頭を抱えながら嘆くと、三津谷が小さく笑った。

「文句を言ってないで、もう少し辛抱しろ。」

「はーい。」

内田は肩を落とした。

片山はそのやりとりを聞きながら、小さく笑っていた。


________________________________________


翌日の朝、ニュースではネットワーク障害が復旧したことが報じられた。

「Technosoft のネットワークトラブルが解消され、世界中で順次復旧が進んでいます。」

管制官たちは、それぞれの業務を再開する準備を進めていた。佐藤も全員に労いの言葉を掛ける。

「みんな、昨日はご苦労だった。」

その言葉に全員が頷き、それぞれの持ち場で新たな一日を迎えた。


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