星月と崩壊の世界
この場所に閉じ込められてからどれだけの時が経ったんだろう。
「すまない……御巫に選んだせいで」
「ううん。私達が選んだ事だから」
そう。これは私とアゼグで選んだ事。後悔なんてしてない。
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この運命を選んだ始まりは、あの日だと思う。
何もない外とは違って、華やかな王宮の一室。
故郷から人が消えたあとに出会った緑髪を三つ編みにしている青年ウィンに連れられて、私はここへきていた。
「ウィン、お待たせ、って、その子は? 援助を求めてきた子? 名前言える? 言葉とか分かる? 」
綺麗な青黒髪を揺らしてくる青年。彼がのちに私の片割れになる月の御巫候補アゼグ。
初対面の印象は、お人好し。終わりゆく世界。いつか全てが消える。そんな世界でまだ希望を抱いている。初対面でそれを感じた。
「アゼグ、彼女が前に話していた子だ」
「まえ……あっ⁉︎ 御巫の素質があるっていう! 俺はアゼグ。一応、この国の王だけど、今となっては何の権威もないから、気軽にしていて。君は? 」
「リーミュナ。谷の地で暮らす希少種」
王宮にいる身なりのしっかりとした人だから、王族という事は驚かなかった。こんなに話やすいというか……性格については驚いていたけど。
噂とは違ったから。
「谷の地……あの……えっと、その……ごめん! 守れなくて……その、あの話は聞いているから、どうしても生き残りに謝りたくて」
「えっ⁉︎ あ、謝るなんて、そんなのいらないよ。あれは、止めようのなかった事だって分かっているから、頭をあげて」
本当に彼は王族なの。そんなふうに思っていたと思う。
私の種族に気づくとすぐに頭を下げて謝ってくるから。それが、彼の良さなんだろうけど、王族としてどうなんだろうとは今も少し思っているかな。
「リーミュナ、もし良ければここで暮らしてみないか? ここなら不便な事はあそこよりは少ない。それに、アゼグは頼りになる。きっとリーミュナに良い風をもたらしてくれる」
「……ウィンの頼みなら。あそこにいて不便なのは事実だし。でも、アゼグは良いの? 」
「ああ。大歓迎だ」
郷が不便だからという理由で、私は王宮でアゼグと暮らす事になったけど、今だから分かる。これには、御巫候補を側にいさせる目的があったんだって。
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御巫の素質があるかららしいけど、私は世界の声がなんとなく聞こえる。でも、それが日に日に消えていく。
「……」
「どうした? 体調悪いなら休んで」
「大丈夫。世界の声が聞こえないだけ」
それは突然だった。世界の声がぱったりと聞こえなくなったのは。
「……この世界は、どうなっちゃうんだろう」
終わりゆく世界。救済の方法は未だ見つかっていない。多分、もう手遅れなんだ。それは、この頃から気づいていた。
「……分からない。どうにかしようとしているけど、状況は変わらない」
「……」
「けど、どれだけ光が見えない状況でも、必ずどうにかなるって。この世界も、リーミュナも俺が守るよ」
私を励ますように笑顔を見せるアゼグに、思わず笑っちゃった。だって、私はこの近辺で戦闘種族なんて呼ばれている種族なんだよ。
日常的に魔物の相手をして、結婚するにも強くなければいけないなんて種族だから、自分より弱い人に守るなんて言われるのがおかしくて。
「ふふ、アゼグって本当に変わってる」
「……リーミュナって、笑うと……なんでもない。今日はウィンが来る人だけど、遅いね」
「うん」
ウィンが遅れる事とかないんだけど、その日はどれだけ待ってもこなかった。
あとから、アゼグの方にどうしても自分がやらないといけない仕事ができたと連絡があったらしい。
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薄暗い。昔は明るかった。建物が並んでいて、植物が生い茂る場所だったって聞いている。でも、今は見る影もない。
植物なんて存在しない。自然の明かりなんて存在しない。
私の初恋はウィンなんだけど、そのウィンがあの日以来連絡すら来ていない。
「……リーミュナ、恋した事ってある? 」
「うん。突然どうしたの? 」
「俺、リーミュナが好きかも」
本当になんでも突然なんだよ。理解するのに時間かかったよ。
こんな世界だとしても、アゼグの想いに向き合いたい。
こんな世界だからこそかもしれないけど。
そんな想いから、私は魔法杖を取り出して、立ち上がった。
「えっ? あの、リーミュナ? 話」
「うん。だから、勝負しよ? 」
アゼグは色々と勉強していて、私達種族の事も知っていたけど、この風習は知らなかったみたい。突然私が勝負とか言って戸惑っているみたいだった。
でも、それを引き受けてくれた。
「女の子相手とか気が引けるけど、本気だって見せるためなら」
とか言っていたけど、女の子相手っていうのは、途中で忘れてたんじゃないかな。
アゼグが立ち上がって訓練用の剣を取り出した。
「懐かしい。昔良く使っていたよ」
「えっ? 」
「話はあと。いつでも良いよ」
アゼグはお行儀の良い剣術という感じだった。でも、それだけなら私には通用しない。
防御魔法を使うまでもないと思って、魔法杖でいなして、弱体化魔法で決着。
アゼグには内緒にしていたけど、私は郷にいた頃、というか郷に人がいた頃、何度も勝負を挑まれていたの。その度に返り討ちにしていたから、郷のみんなは十歳くらいで恋人を作っていたのに、私だけは十六歳になってもいない。
ウィンにだけは負けたけど。ウィンは、私を御巫候補にはできても御巫にならないと結婚はできないって言われたんだ。
だから、初恋のウィンとは恋人にすらなれなかった。御巫になるのは御巫候補になるのとは別だから。
「これが戦闘種族の実力……」
「嫌いになった? 」
「知らない一面が見れてもっと好きになったけど……これ、俺が勝たないと恋人にはなれません系だろ? もう一度チャンスとか」
「いくらでもあげるよ。だから、私に勝ってね? 」
初恋は確かにウィンだった。でも、アゼグといるうちに、自分でも気づかずに惹かれていたんだと思う。
手は抜かない。でも、アゼグには勝ってほしいと思うくらい。
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それからの毎日は、今まで以上に楽しかった。アゼグが毎日のように挑んできては私に負かされる。そんな毎日。
その日までアゼグは一度も私に勝つ事はできなかったけど、勝つために毎日のように戦術とか剣術とか学んでいたのは知っているよ。
「すまない。今まで来れなくて」
ウィンが仕事を終えてきてくれた。それがその日だった。
空を見上げると真っ白い雪があった。それが異常な事だと気づく前に、雪が空を覆った。
理由は分からないけど、空中で積もって、私達はこの世界に閉じ込められた。
生活はできる。元々薄暗かったから、明かりがないのはなんとも思わない。
こうなる前に逃げれば良かったとは思わないよ。この世界と共にいる事でウィンと繋がっていられた。アゼグと一緒にいられたんだから。
それは、この世界じゃないとだめだったと思うから。
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それからどれだけの時が経ったのかは分からない。今もずっとここにいる。
「私達はここしかないから良いけど、ウィンは、弟さんがいるよね? 」
「フォルだっけ? 何度か俺達のところへ遊びに来ていた。フォルもミディとゼノンも会えないのは寂しいんじゃないか? 」
私達より前に御巫候補となったミディちゃんとゼノンくん。二人を御巫候補に選んだ黄金蝶のフォルくん。
フォルくんは、ウィンの弟だけど、ずっと会っていないんだよね。ここにいて、連絡すらできない。
「そうだな……仕事を放置するなって言っているかもしれない。ここから出れたら休みを与えないと」
「……出れるかな。ずっと、このままなんじゃ」
「出られるだろ。いつかあの雪も溶けてくれる」
アゼグはこんな状況でも笑顔をやめなかった。それだけが支えてとなって、また遠い時を過ごす。
いつかここから出られる日が来るまでずっと、ここで生き続ける。




