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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第35話 現実への帰還

 荒げた息が整ったことを見計らって葵と五月は真子に近づいた。

「あ、あの、これで合格ですか?」

「んー、むしろご褒美だったかしら?」

「あ、あはは。そ、そうかもしれませんね。その、け、結構すっきりしました。……もとからそのつもりだったんですよね。えっと、あおいさん?」

 真子は葵があえて煽ったことを察していたらしい。

「あら。意外と冷静じゃない。改めて自己紹介だけどわたしは皆本葵よ。ちなみにこの子はさつま。わたしの名前は忘れてもいいけどこの子は忘れないで」

 だっこしたさつまの頭を撫でるとふんふん臭いを嗅いでいるようだった。

「あ、えっと、あたしは南野真子です。へ、蛇はククニ。あと、ご、ゴリラ呼ばわりしてすみません。さ、さつきさんもありがとうございます」

 ククニはすでにアポロから離れて真子の足元に寄り添っていた。

 それを見て五月はどこかほっとしていた。

「どういたしまして。私は平川五月。こちらはドーベルマンのアポロです」

 ワン、とアポロは一吠えしてその存在を主張した。

「さて。これからどうしようかしら。私としてはここで、『保護』、されてるペットを放置したくないのよね。ククニも含めてだけど」

 葵の皮肉っぽい言い方が示す通り、決着はついたとはいえ問題は山積みだ。

「緑の会を糾弾するなら特害対の協力が必要ですね」

「え、と、とくがいたい?」

「特別獣害対策委員会。まあ要するにこの戦いを勝ち抜くために協力してる集団よ」

「そ、そんなのあるんですね……」

「真子さんに私たちに連絡してもらってそこから特害対に連絡してもらうのが一番ですかね」

「あ、す、すみません。あたし、スマホ持ってない……」

「中学生よね?」

「そ、その、そういう教育方針で……」

「んー……自宅に電話は……」

「あ、ありません」

「……もう直接会ったほうが早そうですね」

「オッケー。わたしたちが緑の会の近くまで行く。で、特害対の誰かもそこに連れていく。そこで『偶然』、動物虐待について事情を聴く。とりあえず明日、いえ、今日? まあとりあえず正午に集合。そういう筋書きで行きましょうか」

「あ、あの……お母さんはどうなりますか?」

 ちらりと倒れ伏す女性に視線を送る真子。ろくでもない母親ではあるが、親愛の情を捨てきれないらしい。

「特に何もないでしょう。直接動物に加害していたわけではありませんし。真子さん。あなたは自分の母親とどうなりたいですか?」

「み、見捨てるのも、見捨てられるのも、い、嫌です」

「……もういっそ離れたほうがお互いのためになる気もするけど……そう簡単にはいかないわよね。ひとまず保留。そろそろ起こしてくれるかしら?」

「承知いたしましたお嬢様がた。良い夢は見られませんでしたが、目覚めが良いことを祈りますかな」

 ククニが大きく口を開く。

 そこから水が零れ落ちる。赤色だったそれを見てぎょっとしたが、ククニは苦しそうな様子もなく、真子も驚いていない。

 いつものことなのだろう。

 その液体が地面に落ちると、ざあ、と広がり小さなお皿に水を注いだようにこの世界を満たしていく。

 みるみるうちに腰ほどの高さに。不思議なことに水の抵抗はない。赤色の液体がこの世界全体を満たすと意識がふっつりと途絶えた。


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