第33話 ぶっ飛ばせ
「ストップ。あんたが行っちゃだめよ」
見ていられず今にも真子の母親の前に躍り出そうとした五月の肩を葵が掴む。
「あなたの言いたいことはわかります。たしかに彼女が自分で解決しなければいけないことですが他人の助けが必要なこともあるでしょう」
「それ、実体験?」
「私の過去を見たんですね?」
「お互い様でしょう?」
「そうですね」
「ふむ。吾輩のギフトは水に触れると夢の中の誰かの過去をランダムで見ることになります。偶然ながらお互いの過去を覗いてしまったようですな」
ククニの補足は二人とも聞いていなかった。にらみ合い、一触即発の空気が漂う。
そんな二人の様子を露知らず、真子はぼんやりとククニを初めてみた時のことを思い出した。
キレイな緑。鮮やかな赤とも穏やかな青とも違う、体一面が緑に染まっていた。
ここの会員はどこか不気味なもののように敬遠していたけれど、自分はもっと近くにいたいと思った。
だからたまたま盗み聞きしてしまったこの会話を聞き逃せなかった。
『あの蛇には餌をやるなってさ。まあ、虫とかネズミとか食うらしいからな。自分たちで取ってくるのもいやだからちょうどいいだろ』
勝手な話だけれど。この蛇は自分と同じだと思った。
こんなところに無理矢理連れてこられて、ろくな食事もとらせてもらえない。
自然志向? 環境意識が高い?
バカバカしい。
適当に自然にいいことやってるふりして月謝取ってるだけじゃん。
そんなことを言ったら二時間くらい説教されたあげく変な歌まで歌わされた。歌、苦手だから嫌いなのに。
そういうこの場所の反骨心からか、こっそり蛇の世話を始めた。まあ、隠れてエサをやることしかできなかったけど。
そうしたらいつの間にか会話ができるようになった。善の神と悪の神との闘いとかそんなことより、話し相手ができたことが嬉しかった。
だから。
今ここでこの人に反抗しなくちゃいけない。
この人は優しい時もある。たまに、本当にたまに、あたしをねぎらってくれる。
うん、わかってる。それがこの人なりのしつけの仕方で、それが虐待一歩手前の人心掌握術の一種だってことくらい。
親によくされない子供がそれでも親を慕うってことくらい知ってる。
だから言い訳はやめよう。
たまに優しいからって、いくら愛しているって言われたって、やっていいことと悪いことがある。
「ねえ、お母さん」
真子の質問にもまだ真子の母親は笑顔のままだった。
「あの蛇ってどうするの?」
「蛇……ああ、あれね。会長がおっしゃるにはここで保護するらしいわ」
「保護? 監禁の間違いじゃなくて?」
その言葉に母親は豹変した。
「なんてことを言うの真子! あなたはここで安らかに暮らしている動物がどれだけ幸せかわからないの!?」
そんなふうに大声で言えばいつも真子は項垂れて謝る。
これが彼女の教育。正しいとか間違っているとかそう言うことではない。彼女はそれしか知らなかったし、そうされて育ったのだ。だから娘に同じような教育を施すのは当然と言えた。
だから想像さえしていなかった。
真子が振りぬいた右こぶしが自分の顔面を殴打するなど。




