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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第29話 血液

 生理について女性同士でもあけすけに話すことは少ない。

 ましてや葵と五月は出会ってそう時間が経っておらず、人に弱みを見せることをよく思わない五月ならばいきなりの葵の質問にそう答えても無理はなかった。

 さすがにそれを葵も察したらしく、次にこんなことを言った。

「いや、そうじゃなくて、答えてもらわないと困るのよ!」

 その言葉で五月もようやく冷静になった。これもギフトを見破ることに必要なのだ。

「確かに今日は月のものが来ていますが、それが何か?」

「ありがと! あとごめんね! 朝練とかに付き合わせて」

「いえ、私はそれほどきついほうではないので……それよりも」

「ええ。わかったわ。『オールイン』!」

 そう宣言するとぴたりと半透明の蛇の動きは止まった。

 それからゆっくりとさつまを抱きかかえた葵が奥の部屋から抜け出し、五月とアポロの横側に立つ。

 必然的に真子とククニと正面から相対する形になった。

「さて。説明は必要かしら?」

 真子はびくりと身を震わせただけだったが、ククニは饒舌に、そして慇懃に応対した。

「ええ。それはそれは。ぜひ拝聴させていただきたく」

 明らかな挑発だったが葵はそれに乗ることにした。

「それじゃあ始めましょうか。まずあなたたちのギフトの発祥はオーストラリア。この辺はアクションで明かされた情報からも間違いないわ」

「それはようございました。続きをどうぞ」

 ククニはもちろん無表情だ。そもそも人間に蛇の表情がわかるはずはないが、声の調子からにこやかだということはわかる。

 蛇が笑っているという状況に薄気味の悪さを感じてはいたが、それは失礼にあたると判断した葵は感覚を封殺した。

「で、オーストラリアで夢と蛇と言えば真っ先に思いつくのが虹蛇」

「そうなんですか?」

「そ、そうなの?」

 疑問は五月と真子の二人から。

「五月はともかくなんでオーナーのあんたまで疑問形なのよ」

「だ、だってククニが下手に調べると口を滑らせるって……」

「英断ね」

「もったいないお言葉です」

 ククニは軽く首を下げた。会釈するような動作だった。見た目と違い紳士たらんとしているのかもしれない。

「とにかく虹蛇は虹と蛇を関連付けた神。オーストラリアのほかにアフリカ、アメリカの土着の神話で頻出するわ。天候神、創造神としての性質が強いわね。水を操ったり、蛇を生み出したりするのはこの辺の逸話が現れてるんじゃないかしら。だから少なくともククニのギフトは虹蛇の性質を持つ可能性が高い。で、アボリジニの神話の虹蛇だったらほぼ自動的に夢の性質が組み込まれる」

「話が脱線しかかってますよ」

「おっと。で、重要なのは音楽。ピアノを鳴らすと蛇が止まった。さらにこの夢の中では音楽を鳴らす機械なんかは壊れてる」

 葵がたまたま近くにあったラジカセのボタンを押しても反応はなかった。

「だから、このギフトにとって音楽は何かよくないもの。あるいは反発するもの」

 ククニも真子も授業中の真面目な生徒のように黙っている。

 五月はいつも思うのだが、葵はギフトを解き明かしている時、とても生き生きとしている。単純に謎を解くのが好きなのか、それとも相手を追い詰めるのが好きなのだろうか。

 なんにせよ五月にはまだ疑問があった。

「それだけでは……先ほどの質問に納得できないのですが」

「ああ。あれ? あんたとここで最初に会った時聞いたんだけど……このギフト、多分なんかの条件があるのよね? それ、多分相手が生理だってことなのよ。わたしは巻き込まれただけかもしんない」

「ちょっと待ってください。生理と神話の蛇に関係があるわけないでしょう?」

「え、あるわよ?」

「あるんですか!?」

「っていうか、神話って結構下ネタ多いわよ? この程度でひるんでたらギリシャ神話とか調べることすら無理よ」

「そ、そうですか……」

 それほど神話に詳しくない五月は衝撃を受けたようだった。

「そしてアボリジニ神話で語り継がれていた蛇の伝説の一つに、女性の経血により眠りから覚め、女性を飲み込み、その女性たちが最終的に蛇に飲み込まれないようにするための歌と踊りを夢の霊となって部族に伝えられた蛇! それは、ユルルングル!」

 宣言と共に空間がたわむ。

 壁、床、空気、水、それらが振動し、共鳴し、大音量となり、ククニを激しく打ち据えた。


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