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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第26話 惑乱

 再び過去の情景を見せられていた葵はぺちんと頬を叩く感触で目覚めた。

「あれ? さつま?」

 肩によじ登っているさつまがほほに少しだけ硬い肉球を押し当てている。

「あらー、さつま起こしてくれたのねー。うひゃひゃ。もう起きてるわよー」

 肩のさつまを抱きかかえ、撫でくりまわしたい衝動に襲われるが我慢した。

「あなたも起きましたか」

 横を見ると五月ももう目覚めていた。こちらはアポロが起こしたのだろう。

「おそらくですがあの蛇、ククニのギフトはオーストラリアに由来があります。ギフトで生み出した蛇の一つがオセアニアに生息するタイガースネークでした」

 ちらりと二匹目の半透明の小さな蛇を見る。すでにアポロに叩き潰されたそれは消えかけていた。

 ちなみにタイガースネークは虎のような模様を持つ蛇で、国土に生息する蛇のおおよそ八割が毒蛇というオーストラリアでさえ、最も危険な毒蛇とも言われている。

 すでに真子とククニの姿はない。五月と葵が過去を見せられていた間に逃げ出したのだろう。

「相手のコールで明かされた情報と合わせ……」

 自分のカードを見ていた五月がぴしりと固まる。いつも通りの完全な無表情だったが、もしも彼女に表情があればとても苦々しい顔をしていただろう。

「五月? 何が書いてあったの?」

「明かされたのは……関連する地域……オーストラリアです」

 瞬間葵の表情に怒りの炎が灯った。

「ラアプラアアアス!」

『うけえけえけけけけっけ! どうしたよ!?』

「ねえ! さっきからアクションで開示される情報がもうわかってることばっかりなんだけど!? 不正してない!?」

『ねえよ! アクションで開示される情報は完全ランダム!』

「くっそう。まじでただのトンデモハッピーガールってこと?」

『そうじゃねえかなあ!』

「運が良ければ致命的な情報を獲得できますが、悪ければ無意味な情報しか獲得できません。皆本さん。どの程度絞れますか?」

 葵は少し考える。

 この時点ですでにアボリジニの神話であることはほぼ確定している。

 アボリジニの神話において夢となればすぐに思う浮かぶことがある。

「アボリジニの神話のドリーミングが関わってるわね。ドリームタイムとも言うわ。わたしじゃ理解しきれてないんだけど……オーストラリアの先住民アボリジニは夢を特別視してたの。世界や生き物の起源。あるいは神話そのもの。それらを夢の時代と呼び、夢こそが真実である……そう考えられていたらしいの。まあ正直これも正確な表現かどうかわかんないけど」

「蛇とのかかわりはありますか?」

「めちゃくちゃあるわ。ただ、ありすぎてわかんない」

「そういえばオーストラリアには大量の蛇が生息しています。神話も多くて当然ですか」

「有名な奴でも今のところ三個くらいはあるわね。せめてあと一つヒントがあればね」

「そろそろ敵のスキルも打ち止めでしょうからあまり積極的にアクションを行わないでしょう」

「ねえ、そういえばスキルを全部使用可能になってる状態でベットしたらどうなるの?」

「スキルの使用回数や時間制限などを超過していればスキルが再使用可能になります。そうでないならギフト全体が強化されます。ただし、回数を重ねるごとに強化量は減衰していきます」

「マイナー神話だからって調子に乗ってがんがんアクションしてくれたらありがたいけど……そうもいかないわよね。そういえばアポロちゃんは濡れてるみたいだけど、過去を見なかったの?」

 スプリンクラーに溜められていた水は傘を開いていた真子以外の全員に降り注いだ。本来ならククニも一瞬行動不能になるはずだった。

「はいですワン。さつまも動いていましたワン」

 ぶるぶると体を震わせて水を弾き飛ばすアポロ。それをまねたのか、さつまもぶるぶると体を震わせる。

「今までギフテッドにも効果があったはず。戦闘中だとギフテッドは過去を見ずにすむのかしら。でもどうやって戦闘してるか判断するのよ」

「アクションではないでしょうか。一度でもベットやコールなどを行えばギフテッドは過去を見ないのかもしれません。そういえばあなた自身もギフテッドですが……」

「ダメっぽい。わたしのアクションでスキルを発動できる対象は自動でさつまになってる」

「そうなると……やはり水には注意しないといけませんね。どうも直接オーナーを狙うとペナルティが発生するように変更されたようですが……」

 二人でうんうんと唸る。

 敵の戦力は圧倒的というほどではないが、とにかく夢の中での戦いに慣れている。どこかで相手の裏をかかなければ相手のペースに付き合ってしまう。

「よし。ぶっつけ本番だけどさつまの新しいスキルを試しましょうか」

「凛々しい表情で断言しているところ申し訳ありませんが、さつまを撫でながらでは迫力がありませんよ」

「しょうがないでしょ。定期的にさつまを撫でないとさつま不足で飢え死にするんだから」

 そういえばこの世界でもお腹はすくのだろうか、とどうでもいい疑問が浮かんだ五月だった。


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