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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第25話 誕生

 二つ隣のベランダに飛び移り、鍵のかかっていない大窓から部屋の中に入る。

 たったそれだけの動作だが、真子の息は大きく上がっていた。

「シュー。ご無事ですかな、お嬢さん」

「だ、大丈夫。あ、あたし、まだやれる」

 ククニは自分のオーナーが極度のあがり症で貧弱でさらに弁舌も得意でなく怠け癖があり……。

「ククニ。な、なんだか失礼なこと考えてない?」

「お気になさらずに」

「そ、そう。ならいいよ」

 すうう、と息を大きく吸い込む。

 それだけで冷静になった。

「まず、『ヴェリタス』」

 だがククニは知っている。南野真子は決して優秀な人間ではないが、いざというときの火事場の馬鹿力はとてつもなく、ある意味この戦いに向いているタイプの人間だと。

「次は……うん。あれで行こう。『ナティビタス』」

「承知いたしました」

 ククニが自分の顎を大きく開くとごぽりと黒々とした球体を口から吐き出し、その球体はどんどん巨大になり、ニ十センチほどの大きさになると、ひび割れ、中から半透明の、虎の模様によく似た色の蛇が現れた。

 幽霊のように見えるそれは似たようなものであった。

 ナティビタスはかりそめの蛇を生み出すスキル。ただしどんな蛇が生まれるかは運次第で、一定時間が経過するか消滅するまで新しい蛇を生み出すことはできない。

「さて、それでは参りますと……おや、この音は?」

 どかんと、まるで何かが爆発する音が聞こえる。地震のようなそれはだんだんとこちらに近づいてくる。

「ま、まさかあの人……」

 そして真子たちがいる部屋の壁が吹き飛んだ。


「よし! 見つけたあ!」

 真子とククニ、そして半透明の蛇を見つけて獰猛な笑みを浮かべながら葵は叫ぶ。手の甲からはわずかに血がにじんでいたが、これはさつまがギフトを使うために自らつけたものだ。

「か、壁をぶち抜いてきたの!? ご、ゴリラ!?」

「誰がゴリラよ!」

「どうみてもそうでしょう」

 五月の冷静なツッコミにいちいち反応せず、きりっとした視線を真子たちに向ける。

 だが割り込むように半透明の蛇が襲い掛かってくる。

 それを迎え撃ったのはアポロだ。亡霊と黒い影が交錯する。

 アポロは蛇の胴体に噛みつき、アパートの床に引き倒す。だが反撃にも蛇も鎌首をもたげ、アポロの右前足にかみついた。

 むしろその反撃を待っていたアポロはギフトが発動し、右前足が分裂する。

 二つになった右前足が唸り、今度こそ蛇を粉砕した。徐々にその体は崩れ、粒子になって消えていく。

「アポロ! 毒は!?」

「ありませんワン!」

 ナティビタスで生み出した蛇はかりそめであるがゆえに毒を持たない。もしも毒があればこの時点で決着はついていただろう。

「『ベット』!」

 アポロの無事を確信すると間髪入れずアクションを行う。相手の情報処理能力の限界を誘うつもりだろう。

「シュー。これはいけませんな」

 そう言いつつ再びククニは口から球体を吐き出した。初めてその光景を見た二人と二匹はエイリアンでも見たかのようにぎょっとした。

 そこから先ほどよりも二回りは小さな蛇が現れた。

「や、やば、はずれ! ククニ! 『フルーメン』! あ、あと『コール』」

 焦ったらしい真子が新たにスキルを使用し、ついでのようにアクションも行う。

(あれ? フルーメンって確か……さつまも使える奴……まず!?)

 とっさに記憶の底を漁った葵は叫んだ。

「水を操るスキル! 避けなさい!」

 この世界では水に触れると過去の記憶を見せられる。水を操る能力と相性が良すぎる法則だった。ただし葵は一つ思い違いをしている。現在ヴェリタスの効果によってお互いに相手にダメージを与えることが可能であり、オーナーを攻撃するとペナルティを受けてしまう。

 だから直接人間を攻撃することはなかったのだ。

 真子は水の入ったペットボトルと折り畳み傘を鞄から取り出し、瞬時にペットボトルの蓋を開けてククニに放る。さらに折り畳み傘をばっと開く。ククニは器用にペットボトルを口でキャッチした。当然葵たちは警戒を強める。

 だが、ククニがペットボトルを向けたのは葵たちではなく天井だった。

 消防車のホースから放たれた水よりも速く、ペットボトルが天井に直撃する。

「どこ狙って……!?」

 ククニが狙っていたのは天井ではない。天井に備え付けられたスプリンクラーだ。そして破壊されたスプリンクラーから滝のような水が一気にあふれ出した。


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