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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第23話 拒絶

「皆本さん……あまり物騒なことを言わないでください。怯えているじゃないですか」

「あらそう。悪かったわね」

 言葉とは違い全く悪びれていない葵に対して少女、南野真子は怯えた視線を向けていた。

 改めて真子を観察する。

 病的なほどに華奢な手足。あまり手入れされていない髪の毛を後ろで束ねている。年齢ははっきりしていないものの、自信がなさそうで、はつらつとはいいがたい顔つきだった。服装は例の緑色の無地の服装だった。

 多分緑の会から支給された服装か何かなのだろう。

「ど、どうしてここがわかったんですか……?」

 口をもごもごと動かし、かろうじて葵たちに届く小さな声で話しかけてきた。

「それよりもあんた、わたしたちをここから出す気はある?」

「え? あ、あたしたちに、な、何もしないんですか?」

「いやまあ、最終的には戦わなきゃいけないけど、別に今ここで戦う必要はないでしょ」

 今回でこのギフトのルールは理解したため、次にくればもっと効率的に戦える。さらに言えばホームグラウンドであるここで戦うより、現実に戻ってから戦った方が勝率は高そうだった。

 それを理解しているため五月も余計な口は挟まないが、一方でその条件はむしろ敵側の方が理解しているはずである。

 真子はこの場で決着をつけたいはずだった。つまりこれは葵のトラッシュトークであり、二人とも真子がそれを受け入れるとは思っていなかった。

 だからこそ次の言葉は予想外だった。

「い、いいですよ」

 当然、二人は警戒する。

 このギフトに知られざる能力があるのかもしれない。

「そ、その代わりここでのことは全部、だ、黙っててもらえますか?」

「黙るも何もギフトのことは他人に説明できないじゃない」

「そ、そうじゃなくて……緑の会について、です」

「緑の会が怪しい団体であること。動物を、保護、していることですか」

 保護、という言葉を五月はあえて強調した。

「そ、そうです」

(なしでしょそれ)

 葵は心の中で断定した。

 彼女は動物を虐げる人間が嫌いだ。ただ、ごみを漁る野良猫をほうきで追い回す人間を一方的に悪だと断じるほど他人を思いやれない人間ではない。

だが一見善人ぶるふりをして実際にはまったく手を差し伸べない人間は本当に嫌いだ。緑の会や真子の母親はそれに当てはまる。

とはいえそれはそれ。

この場をしのぐために適当にはぐらかそうとして。

「……? ……!?」

 言葉が上手く出せなかった。

 見えない手で口を押さえられているかのように舌と喉が動かない。

「皆本さん?」

 その様子を見ていぶかしんだ五月が葵を覗き込む。

(くそ! もしかしてこの世界!)

 それを見て納得したのは真子だった。

「や、やっぱりあなたもそうなんだ。黙ったってことは私に嘘をつくつもりだったんだ」

「五月。あんた、夢の中で嘘ついたことある?」

「いえ、多分ありません……もしかして」

「ええ。ここじゃ嘘をつけないみたいね」

 ちっと葵は舌打ちした。

 話に乗ってきたのはこちらを試すつもりだったらしい。

「ま、前にここに来た奴もそうだった。き、君は騙されているとか、もっといい環境に移ろうとかそんな口当たりの言いことばっかり。あ、あたしは、あたしは、お、お母さんといて、幸せなんだ! ここにいて、いいんだ! だから、お前たちなんて逃してやらない! ククニ!」

「シュー。結論は出たようですな」

 今まで黙っていた緑の蛇、ククニは空気が漏れ出るような音と共に語りだす。

「お客人の皆様方。どうぞお覚悟を。現実に戻ることは叶いませぬ故」

 丁寧な口調だったが、無機質で殺意の籠った瞳が二人と二匹を射すくめていた。


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