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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第22話 突貫

 定まった視界を確かめるように何度か瞬きをする。

 それからゆっくりと事実を反芻しながらしゃべる。

「あのおばさんはオーナーじゃなくてその娘がオーナー。しかも緑の会についてよく思ってない」

「緑の会の方針に反して蛇にこっそりエサを与えていた。蛇は小食ですから、そういうこともできたのでしょう。ギフテッドとオーナーの絆は推して知るべしでしょうね」

 トカゲを捕獲するというのはそうそう簡単ではない。それをエサとして提供するのなら、並みならぬ根気強さと覚悟が必要だろう。

「ま、それはいいわ。経緯はどうあれ、さつまを害する奴はぶん殴るだけよ。あとはあのオーナー……たしか、真子だっけ。あの子の居場所ね。もしかしたらさっきの映像であった自宅にいるのかしら」

「ワン! その建物ならこちら側ですワン!」

 たたたっと駆けるアポロ。

「わかるんですか?」

「は! あの過去の映像の建物は見たことがありますワン!」

「犬は視力があまりよくないはずですが……ランドマークを記憶する能力は高いのでしょうか」

 そのまま非常口の扉を開けると、確かに先ほどの過去の映像で見たアパートがあった。

 そのまま階段を下る。

「五月。今のうちに言っておくけどさつまは今ギフトが使えないわ」

 ひょいとさつまを抱き上げ、撫でる。気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らしていた。

「怪我ができないということは血が出ませんからね。どうするつもりですか?」

「八岐大蛇のギフトをさつまのギフトのように見せかけるわ。んで、できるだけギフトの正体を探る。あと、敵が何かの条件を満たせばこっちを傷つけられるかもしれない」

「そうでないと勝てませんか」

「アポロちゃんの方はどうなの?」

 アポロのギフトも自分を傷つけることで発動するため葵では使用できるかどうか判断できなかった。

「ギフトは使える状態ですワン!」

「待機状態のようなものでしょう。アクションを行えばスキルは使用できるはずです」

「なら、しばらくはアポロちゃんに戦ってもらうわね。ただ、ギフテッドが蛇だからギフトも蛇の性質を持つかもしれないわ」

「その場合、相性が悪いですね」

 ギフトは神や魔物をモチーフにした力だが、それゆえにモチーフが苦手とするもの、あるいはモチーフにとって上位に当たるものには効果が減衰する。

 アポロのギフトはショロトル。

 それゆえにショロトルの上位、あるいは同一存在に当たるケツアルコアトルの属性である、蛇、金星などにはやや相性が悪く、儀式の生贄として死亡した逸話のあるショロトルでは生贄を要求するような相手では致命的に弱体化する。

「そ。とにかく相手のギフトの情報をすこしでもちょうだい。ある程度絞れてはいるけどまだ全然足りない」

「かしこまりましたですワン!」

「私はあなたが苦手な生物の特徴などを伝えるようにします」

 そうして階段を下りきり、アパートの前に立った。

「人の臭いがしますワン」

 アポロの言葉と同時にさつまも葵の腕からするりと抜けるとすっくと地面に降り立ち、首を目いっぱい伸ばしてあたりを警戒しているようだ。

「アポロ。どこの部屋かわかりますか?」

「は。こっちですワン」

 やはりと言うべきか、ギフテッドは動物であるがゆえに人間とは比較にならないほど感覚が鋭い。

 しかしそれは相手も同じ。蛇はピット器官だけでなく、耳も鋭い。この静寂に満ちた夢の世界で不意打ちを成功させるのは策略を練らない限りお互いに難しいだろう。

 それをなんとなく察している二人は必要以上に忍び歩きしていなかった。

「ここですワン」

 アパートの一室、204号室に立ち止まる。

 扉の取っ手に手をかけ、開こうとするが鍵がかかっている。

「壊すわね」

 何気なく言うと葵は扉を蹴っ飛ばした。本来外側に開くはずの扉はぐしゃりとひしゃげてあっけなく壊れた。

「ひっ」

 かすかに怯えた声が聞こえる。

 アパートの一室の奥、緑の蛇と華奢な少女がそこにいた。

「初めまして。真子さんかしら。とりあえず大人しく殴られてくれる?」

 葵の物騒な言葉に少女、南野真子はより一層身を固くした。


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