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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第21話 崇拝

『お母さん、も、もうやめようよ』

『何言ってるの、真子。会長が私たちに託してくれた仕事なのよ』

 視界が晴れるとすぐにそんな声が聞こえた。

 葵、五月、アポロ、さつまの二人と二匹はごく普通の民家の前にいた。

「五月。この二人、緑の会の勧誘してきた奴よね?」

「ええ。大人の女性と私たちより少し年下の女の子。真子さんというのですか。この二人のどちらかがオーナーでしょう」

 二人の服装をじっくり見る。

 おそらくは緑の会から支給されたと思しき無地の緑のシャツ。女性にしては異常とも言えるほど洒落っ気がなかった。

 大人の女性がインターホンを押して一方的にしゃべる。

『わたくし、緑の会から来ました。ぜひとも地球環境の保護に関してのおはなしを……、いえ、そうおっしゃらずに……では保護されるべきペットについて……』

 台本を読み上げるように同じような台詞を薄気味わるい笑顔で繰り返す。

 二人の親子は何度も民家を訪問しては勧誘し、追い返されることを繰り返していた。


 親子の訪問と勧誘を横から見ていた葵はぽつりとつぶやいた。

「典型的なカルト宗教の手口ね」

「この訪問が? こんな勧誘が成功するとは思えませんが……」

「勧誘するのが目的じゃないのよ。勧誘に失敗させて社会からの孤立感を深めることが目的なの」

「……相手を洗脳するために孤立させることがあると聞いたことはありますが……意外とそういうのにも詳しいですね」

「……先生のお子さんが昔カルトに引っかかったらしいのよ。で、お子さん夫婦は出ていったの」

「……妙に大きい家に住んでいたのはそういうことですか」

 五月も薄々察していたが、あの家は二世帯住宅だったらしい。子供夫婦が出ていき、さらに妻にも先立たれて空っぽの家だけが残った本来の家主の気持ちはどんなものだったのだろうか。

 だからこそ葵を自分の子供同然に愛情を注いだのではないだろうか。

「関係ない話だったわね。こっちに集中しましょう」

 景色はやがて元居た部屋と同じ場所で、一匹の緑色の蛇がケージに入っている場面に移った。

『お母さん。こ、この、保護した蛇、ど、どうするの?』

『会長からの指示によるとここで飼養するとのことです。我々の愛に包まれて健やかに暮らせることでしょう』

『……蛇だから騒動になるのが嫌なだけのくせに』

 ぽそりと呟いた少女の言葉は葵たちにしか聞こえていなかった。

 葵も覚えがある。蛇が脱走したニュースで、かなりの騒動になったはずだ。もしも近隣で蛇が見つかれば同じようになる可能性がある。

「呆れた。妙なところで理性的ね」

「この人たちにとって保護など題目に過ぎないのでしょう」

 五月ももはや嫌悪を隠さない。二人の悪態はもちろん聞こえず、再び場面が移る。

『あ、やった。入ってた』

 少女がペットボトルで自作したらしい罠にトカゲが入っていた。

「おそらく蛇のエサでしょう。……どうやらエサを用意すらしていなかったようですね」

「もういまさら驚かないわよ。ちなみにこの蛇、何て蛇?」

「緑色の蛇ですし……ピット器官もあるのでおそらくグリーンボアかミドリニシキヘビですね。たしかピット器官の位置が違うはずですが……すみません、私では見分けられません」

「毒蛇?」

「違うはずです」

「オッケー。毒で一発アウトは避けたいしありがたいわ」

 どうやらアパートの庭先でエサを捕獲していたらしい。そこから現在地の緑の会の本部まで走る。

「ワウン? この場所はもしかするとオーナーの住んでいるアパートですワン?」

「でしょうね。洗脳するなら部下は自分の目の届くところに置きたいでしょうし」

 そして再び蛇のいるこの部屋に。

『さ、食べて』

 ペットボトルからトカゲを取り出した少女に何者かが言葉をかける。

『シュー。聞こえておりますかな?』

『うひゃあ!?』

 今までのイメージを大きく裏切るほど、少女が大きな声を出した。腰が抜け、しりもちをついて恐れながらも緑色の蛇を見つめる。

これがオーナーとギフテッドの出会いの場面。

 そしてぐるぐると視界は暗転し、元の場所に戻る。


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