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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第19話 崩壊寸前

 建物の中には絵画や壺などの芸術品が多く配置されているようだったが、それらも絵の具が塗りたくられていたり、鈍器で殴られたように破損していた。

「なんでわざわざ芸術品が壊れてんのかしら?」

「オーナーの認識として本当は壊したいと思っているのか、あるいは……自分たちの正当性を誇示するために現実でも壊されているのか……」

「なんで芸術品を壊すのが正当性になんのよ」

「芸術作品は富の象徴ですから。覚えてませんか? ゴッホの絵画が汚されそうになったこと」

「ああ、あったわね」

 葵は興味なさそうだった。歴史的、あるいは考古学的な価値ならともかく、美術品に膨大な金銭的価値を見出す人間ではなく、同時に地球環境よりも飼い猫の環境をよくすることに心を砕く人間だった。

「さらに注釈するとゴッホは生前貧乏でしたから、彼に対する共感もあるようです」

「これを描いた人は貧乏でしたから、この人の気持ちを考えろーってこと? バカバカしい。死人の気持ちなんてわかるわけないでしょ。生きてる他人の気持ちだってわからないのに」

 いつになく皮肉で口が悪い葵だった。

 不機嫌そうに緑の会の施設を探索する。薄気味悪い人影に小奇麗にしている施設がミスマッチしていて不気味だった。

「そういえばアポロちゃんの鼻で何かわからないの?」

「この世界は生き物がいないせいか生き物の臭いもないですワン」

「私たちの臭いはするようなのでもしもオーナーやギフテッドがいるなら臭いでわかるはずです」

「そっか。ん、ここ、鍵がかかってるわね」

 がちゃがちゃと動かしていると鍵が緩かったのか、奇妙にかみ合わない音と共に引き戸が開いた。

 その部屋を見た瞬間、葵は唇を固く結び、口の奥からぎり、と歯を食いしばる音が聞こえた。

「皆本さん? どうかしました……」

 五月も部屋を覗き込むと一拍遅れてから気づいた。

 その部屋の中にはやはり誰もいなかった。

 人だけでなく、奇妙な人影も。

 真っ先に目に入るのは柵だ。室内外のペットを必要以上に動き回らないようにする柵。

 それはいい。

 だがその柵があまりにもボロボロだった。

 まるで、何とかこの柵を壊そうとしていたかのように。それだけではなく、壁や床、無造作に置かれたブランケット。ありとあらゆるものが朽ちそうになっていた。よく見るとペットフードの欠片らしきものが引き戸の近くに落ちている。

 この世界において生き物はギフテッドとオーナー以外存在しない。

 だが、そこに暮らしていた痕跡は残る。

 これを見れば嫌でもわかってしまう。これはもう完全に飼育崩壊している。

 どん、と引き戸に葵の拳が叩きつけられる。

「あー、はいはい。これが動物愛護ってことね。ただ責任を放棄してるだけでしょうが! くそ野郎ども!」

 再び重い音が室内に響き渡る。

 いい加減五月も葵が怒りのボルテージが跳ね上がるタイミングを理解できてきた。動物を虐げる人間に会った時だ。

 それはともかく。

「皆本さん。落ち着いてください」

「これを見て落ち着いていられるわけないでしょう!? ち、現実に戻ったらこんな組織ぶっ潰してやる」

「いえ、そうではなく……ギフトが発動していますワン」

「へ?」

 アポロの忠告に従って引き戸の奥の壁に目を向けると大砲でも撃ち込まれたように壁が崩落していた。

「うえええ!? そ、そんなつもりなかったのに!?」

「パワハラの加害者みたいなこと言わないでください」

「ちょ、これ私のせい!?」

「はい」

「はいですワン」

 さつまもなぜかみゃーと鳴いた。

「うぐ。でもまあ夢の世界でよかったわ。現実だったらマジで弁償もの……あれ?」

 壊れた壁の向こうには当然別の部屋があったのだが、そこにはケージがあった。

 透明のガラス製で、スライドして開閉するようだ。よく見るとコードなどを通す穴もある。

 大きさは一メートル弱くらいだろうか。

 犬や猫のケージではない。ふと、頭にひらめくものがあった。

「五月。これって……」

「ええ。ギフテッドのケージでしょう」

 そこで突然目の前にカードが浮かんだ。

 オーナーが何らかのアクションを行う場合出現するカードは葵と五月二人ともに現れ、そこにはこう書かれていた。

『わたしは誰?』

「いつものギフテッド当ての時間かしら」

「そのようですね。正解すれば相手側の何らかの情報が開示されるとみてよいでしょう」

 まさに探していた手がかりが見つかったのだ。


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