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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第18話 緑の会

 げっそりと青白くなった顔の葵はよろよろと車から降りた。

 アポロも怯えて耳と尻尾が下がっていた。

 さつまだけは今まで眠っていたのかまぶたが重そうだった。

 公園の駐車場に鍵がついたままの車を発見してそれを運転して緑の会の本部まで来た。言葉にすればそれだけだったのだが。

「……運転荒すぎない……?」

 葵の愚痴のような独白に答えたのは運転席から降りてきた五月だ。

「車の運転なんて初めてでしたからね」

 無表情ではあったが、冷汗がぽつぽつと噴き出ていた。

「あんたスイッチが入ると性格変わるタイプ? 現実であの運転やったら確実に捕まるわよ」

「それは皆本さんも一緒だと思いますが。ですが確かに人や車がいないからこそ素人でもたどり着けましたね。そのうち免許も取るべきかもしれませんね」

「わたしは絶対乗らないわよ」

「練習したら上手くなると思いますが……」

「この先あんたがどれだけ縦列駐車を成功させたとしても今回の暴走を忘れることはないわ。ジェットコースターを百回乗る以上の恐怖を味わったわよ」

「……そうですか……」

 しょげている五月だったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

「とりあえずここで間違いないんだから何か手がかりを探しましょう」

 目の前には小さな公民館のような建物だったが、でかでかと緑の会という看板が掲げられている。葵の記憶力がかなり正確だったらしい。

 扉はしまっていなかった。

 躊躇なく建物の中に入る。

 そして、挨拶された。

『おはようございます』

『おはようございます』

『おはようございます』

 二人と二匹はぎょっとした。他人の声を聴くのが久しぶりで、てっきり人はいないものと思い込んでいたからだ。

 だが次に困惑した。

 挨拶をしたのは人間ではなく、マネキンのような人形だった。

「……念のために聞くけどちゃんと人間じゃないわよね?」

 人の顔を見分けられない葵は思わず尋ねていた。あるいは自分の見ているものが幻覚か何かではないかと疑ったのかもしれない。

「安心してください。私から見てもこれは異常です」

 緑の会の内部は奇妙で、奇怪だった。

『地球の緑を守りましょう』

『『『地球の緑を守りましょう』』』

『ペットを自然にかえしましょう』

『『『ペットを自然にかえしましょう』』』

 標語のようなものを指導者らしき人影が読み上げると会員らしき人影が復唱する。

 同じようなことがこの建物内のそこかしこで起こっている。レトロ趣味な人物でもいるのか古びたラジカセがいくつかあるが、音は出ていない。

 放置していれば数十年もこのままの光景が続きそうな気がした。

「カルト宗教か何かですか?」

「そうね。というかそのものでしょ。人間が人間として映ってないのは本人の意識の問題かしら」

「それは……この集団が異常であるとオーナーは気づいているということですか?」

「そうなる……とおかしいわね」

 あの女性が明らかに異常な様子だったのは二人とも覚えている。葵から見ると環境保護活動にどっぷり浸かっているように見えた。

 そんな人間が同じ会員を人間扱いしないということがあり得るだろうか。

「とりあえずギフテッドやオーナーにつながる何かを探しましょう。さつま、離れないでね?」

「アポロも、異変があれば教えてください。ここは敵地ですから何が起こっても不思議ではありません」

「かしこまりましたですワン」

 二人と二匹は盲目的な声だけが響く空虚な建物を散策し始めた。


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