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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第15話 見えない敵

 スマホにはねじくれた角が生えたつぶれたカエルのような顔が映りこんでいた。

「ち、ラプラス。あんたこんなところまで現れるの?」

 このへんてこな平面物はラプラス。自称この戦いの運営側だ。

『ああ? 当然だろ? 俺たちはギフテッド同士の戦いが起これば必ず現れる』

 ふざけた口調だったが、これはかなり重要な発言だった。

 この現象が間違いなくギフトによるものだという言質を取ったからだ。そしておそらくはわざとそういう言い方をしたのだということも察せられる。

 こいつは絶対にどちらかに加担するような真似はしない。

 だからこれもフェアなジャッジであるはずだ。

「ラプラス。あんたが出てきたってことはわたしの行動が何かルールに抵触したってことよね?」

『ああ。このギフトのルールはここの異常を見つけた時に何らかのルールが開示されることだ。そんじゃ、ルーレット、ス、タ、ー、ト』

 気色の悪い妙に音を区切った口調で、けたけた笑うと空中にルーレットが出現した。

 相変わらず軽薄で癇に障る。

 ルーレットが指し示す針が止まる。

『じゃじゃーん! このギフトはギフトの対象者と使用者、さらにはそのオーナーの記憶によって形作られている、という情報が明かされたぜ』

 なお、このギフトで明かされる情報の順番は決まっており、このルーレットは何一つ意味がない。もしもこの時点でその事実に気づいていれば葵は怒りのあまりスマホを地面に叩きつけていただろう。

「記憶……そうよね。そうじゃなきゃ五月の記憶を見たりしないでしょうし……いえ、待って? 相手の記憶も?」

『ああそうだぜ。そして相手の記憶がない場所では相手の支配力が弱まる』

「!」

 それでつながった気がした。

 まず入れない家があった理由。それはおそらく敵もわたしたちも入ったことのない場所だったからだ。

 だがそうなると疑問がある。

「ラプラス。わたしの家の前にトラップみたいなものがあったんだけど。あれは支配力が強いってこと? それと五月の記憶を見たのはあいつもここにいるせい?」

『さあなー。そこは想像に任せるぜ』

 言葉を濁したラプラスだったが、その想像は間違っていない気がした。

 つまり五月もギフトに囚われていて相手のギフテッド、もしくはオーナーはわたしの家の近くまで来たことがある。

「……」

 むっつりと黙り込む。

 つい最近家に来て、なおかつペットを飼っている人間を知っている。いやでも彼女の声がちらつく。

 言い換えれば、もしも五月がもし同じことを聞けば同じ想像をするのではないだろうか。葵はそう考えており、事実だった。




 五月は葵と同じように黙り込んでいた。

 葵とは違うこの世界の法則に気づいた彼女はラプラスから葵が聞かされたものと全く同じ情報を聞き、同じ想像をしていたのだ。

「アポロ。正直に言いましょう。私は夢川さんを疑っています」

 そう言うとアポロの尻尾はしなしなになって地面に垂れ下がった。

「そうなりますかワン……」

 あれだけよくしてくれた相手を疑いたくないのは五月も同じだ。

(ですがそれなら……)

 少し考え込んだ五月は腹をくくった。

「アポロ。わたしと皆本さんが最初に会った公園に行きましょう」

「ワン?」

「この夢の世界に皆本さんが来ていると仮定して、まだ出会えていないのは敵の支配力がある場所にいるからかもしれません。なら、敵の支配の届かない場所……つまり敵が行ったことのない場所に行けば何か突破口が見つかるかもしれません」

「ですが……仮に佳穂様がオーナーだったのなら、このあたりで五月様だけが行ったことのない場所はほとんどないはずですワン」

 確かにアポロの言う通りだろう。

 だが、最初に戦ったあの公園、それも奥の方にある池なら、佳穂も行ったことのない可能性はある。

 それに。

「いいえ。もしもあの公園に行って皆本さんと会えたのなら、逆に夢川さんがオーナーでない証明になります」

 そう答えるとアポロはぱっと明るい表情になり、しっぽもぶんぶんと振り回し始めた。

「行きましょう、ですワン!」

 元気よく今にも駆けだしそうなアポロに微笑みそうになる。いや、もしも五月が代償によって表情を失っていなければ笑顔になっていただろう。

 ふと、思った。

 葵は表情がわからないからこそ動物のわかりやすい態度が好ましいと言っていた。なら、自分もわかりやすい感情表現をするべきなのだろうか。


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