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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第12話 重なり合わない二人

(夢。神話においても重要視されることは多いわ)

 敵の監視を警戒して頭の中だけで考察を進める。

(悪夢を見せる魔物は世界中に散見されるし、夢という分類なら眠りを司る神様だっている。広すぎて絞れないわね)

 夢という不可思議で神秘的ともとれる体験は格好の神話の題材だったのだろう。

(じゃあ逆にギフトからギフテッドは絞れる? ……多分、距離があってもギフトが発動してる。なら、ギフテッドはグループ型?)

 ギフテッドの中には昆虫や魚などの小動物の場合、一個体だけでなく群れで一つのギフテッドになっていることがある。

 そういうギフテッドならギフトの射程距離を伸ばしやすい。

 とはいえ推測に推測を重ねているだけでしかない。

「あーもう、せめて相手のギフテッドがわかればね……」

 なるべく声を出さないようにしても思わず愚痴が出てしまった。




「おそらくこのギフテッドはグループ型ではありません」

 五月はアポロと合流し、しばし葵の自宅を散策したものの、アポロ以外の住人の姿が全く見当たらなかったため、一人と一匹でこの状況の整理と相手のギフトの推測を始めた。

「何故ですかワン? 近づかずに攻撃できるのならグループ型の可能性もあるはずですワン?」

 こてんと首をかしげながらこちらをまっすぐに見てくるアポロを見ると、なぜかワサビ入りの寿司でも食べたようにひりつく感覚に襲われる。

 自分への信頼に応えられているか不安になるからだろうか。

「夢を操るギフトなら、ギフテッドも夢を見なければなりません」

 ギフトは神や魔物をモチーフとした力だが、同時にそれを行使するギフテッドともゆかりのあるものでなければ大幅に弱体化したりする。

 例えば、ハヤブサに水の中を泳ぐギフトは使いこなせないという具合である。

「一般的に夢とは脳が働くレム睡眠中に見ると言われています。哺乳類と鳥類には明確に夢を見ているという研究結果が報告されていますが、昆虫、魚などは夢を見ないとされています。もちろん諸説ありますが」

 通常であれば動物は言葉を話さないため、夢を見ているかどうか聞くことはできない。だが脳波や睡眠中の行動などから推測はできる。

「グループ型は小動物、昆虫や魚などが多いですワン」

「小鳥や、ネズミなどの可能性も否定できませんがラットの忠一のように哺乳類や鳥類はグループ型でない可能性が高いはずです」

「そうであればどうやってギフトを発動させているのですワン?」

「原則としてギフトは遠くの相手には効果を発揮しづらく、オーナーから離れるのも難しいですからね。一番手っ取り早いのは葵さんの自宅の近くに潜んでいること。他の可能性としては……何かギフトの発動に条件があることでしょうか」

「例えば特定の相手にしか使えないなどですワン?」

「そうですね。他にも日付が指定されているとか……もしかするとここに皆本さんがいないのは私だけが条件を満たしたからかもしれません」

 その推測は正しくない。

 葵も五月も、そしてさつまもアポロもすでにギフトに囚われている。

 だがそれを知る術はまだなかった。

「ひとまずこの家をでましょう。これがギフトであるのなら、どこかに手がかりがあるはずです」

 ギフトは善の神と悪の神のいずれかに授けられた力だが、同時に神々は公平な戦いを望んでいるのか、一方的に攻撃できるような能力を作らない。

 だからこそこの夢の世界のどこかにここを攻略できる鍵が潜んでいるはずだった。

 アポロを伴い、玄関の扉を開ける。

 何か異変がないかと周囲を探る。

 だからこそ、気づかなかった。

 足元の水たまりに。

 パシャリと小さな音。

 揺れる波紋。

 すぐに消えるはずだったそれはまるで五月の脳髄に染み渡るように大きく広がり、やがて世界を飲み込んだ。


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