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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第4話 診察

「それで本題に入るんだけど……」

「新しく入った子を診てほしいんだったよねー。でも意外だったなあ。葵ちゃんがさつまちゃん以外の子を飼うなんて」

「……先生のお知り合いの方が体を悪くされたみたいで私が預かることになったの」

 いけしゃあしゃあと嘘を述べる葵に五月は少し感心した。まさかギフテッドについて説明するわけにもいかない……というか説明しても忘れてしまうため説明できないのだ。

 善の神と悪の神との闘いに関する記憶や物証は一般人の目には残らない。

「ああー、それならしょうがないねえ」

(この言葉で納得するということは皆本さんの事情はある程度知っているということでしょうか)

 当たり前だが、一週間ほど前に知り合った葵と五月ではそもそも重ねてきた思い出の数に差があるのは当たり前だ。

 葵と佳穂は少しばかり昔話に花を咲かせていた。


「ほへー。おっきなケージだねえ」

 忠一のために用意されたネズミ部屋に設置されたケージを見た佳穂の感想がそれだった。

 この家はペット一匹につき一部屋用意してもまだ余るほどのお屋敷だったので、日本の家庭事情には似つかわしくない立派なケージが忠一のために用意されていた。

「もともとの飼い主から譲ってもらったものなのよ」

 ちなみにこれは嘘だ。

 特害対の経費でなるべく良さそうなものを注文したのだ。

「なるほどねー。でも、確かにちょっと元気がなさそうかな」

 もうただのラットになってしまった忠一はケージの端からじっとこちらを見つめている。怖がっているわけではないようだが、どちらかというとケージを動き回る姿を想像していたらしい佳穂も少し心配そうだ。

「食事量はどうなってるの?」

「これよ」

 葵は部屋の隅の小さな机に置かれていたノートを手渡した。そこには忠一の様子、排便、食事などがぴしりとした文字で細かく書かれていた。

「さすが葵ちゃんだねー。うーん。やっぱりハムスターとは違うねー」

「そりゃそうだけど、何か思いつくことない? なんでもいいんだけど」

 人差し指を唇に当て、しばし考え込んでから佳穂は口を開いた。

「んー……二人ってどれくらい忠一ちゃんに会ってる?」

「え? ストレスになるといけないからあんまり頻繁に出入りしないようにしてるけど」

「私も同じくですね」

「もしかするとそれがいけないのかもしれないねー」

「そうなの?」

「うん。ハムは基本単独飼育を推奨してるけど、ラットがそうとは限らないんじゃないかなあ」

「ほんと? ネズミって一人で暮らしてるイメージがあったんだけど」

「いえ、それは違いますね」

 葵の疑問に即座に答えたのは今まで黙っていた五月だった。

「ネズミ、つまりげっ歯目はモモンガやリスなどの多くは単独生活を好みますが、マーモットやプレーリードッグなどは大規模な群れを作って生活します。ハダカデバネズミに至っては真社会性動物です」

「……忘れてた。あんた動物には結構詳しかったのよね。ちなみに、真社会性って何?」

「不妊階級をもつ……いえ、要するに高度に細分化された役割を持つ動物です。主に蜂や蟻ですね」

「……ねえ、もしかしてあんた最初から気づいてた?」

「可能性としては考えていましたが……やはり飼育経験のある人に見てもらいたかったので」

「……まあ私も同じ意見だけどね……」

「あははは。二人とも仲いいねえ」

「そう?」

「そう、ですか?」

「うん。息が合ってるかんじだよ。えっとそれでね? 聞いておきたいんだけど、このラット、えっと、忠一ちゃんだっけ。この子のもともとの飼い主さんって年配の方だよね」

 ちなみに忠一の本来の飼い主、というかオーナーについて二人とも知らない。どうも特害対にすら記録が残っていないらしい。『戦い』に巻き込まれた場合そういうことがままあるらしい。

 だから心苦しいが嘘をついた。

「そうね。もしかしたら家にいることが多かったかもしれない」

「だったら、飼い主さんはしょっちゅうこの子のお世話をしたんじゃないかな。だから寂しくなかったけど……」

 推測を重ねた佳穂だったが、その言葉には一定の説得力があった。だからこそ話は難問にぶつかる。

「私たちはそういうわけにはいかないわよね」

 五月も葵も、もちろん佳穂も学生だ。少なくとも日中は学校に行かなければならない。


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