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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第2話 新しい家族

 本日は休日であり、時間に余裕がある。いや、ようやく時間ができたというべきだろう。

 葵はこの一週間新しい同居人を迎え入れるために必死だったのだ。

 まず平川五月の引っ越し手続き。こちらは彼女たちの所属する組織……特別獣害対策委員会、長いので特害対がおおむね引き受けてくれた。

 手間がかかったのはむしろ彼女の飼い犬アポロと諸事情によってこの家で飼うことになったラットの忠一だった。

 ペットの飼育にはとにかく準備が必要だ。

 ケージ、犬小屋、ペットフードなど……さらにそれらを経費として申請するために必要な書類。

『なんでギフテッドとオーナーを管理してる組織なのにこんな書類ばっか必要なのよ』

 そう葵が愚痴をこぼすのも無理ないことだった。

 五月もうんうんと頷いていたのは彼女も経験があるからなのだろう。

 書類仕事ほど精神的に疲労することもそうはあるまいということを若い身空でいやというほど思い知った二人だった。

 とはいえペットに対する執念と行動力は並々ならぬ葵はそれらの仕事を完了した。……のだが、ここで新たな問題が浮上した。


 朝の稽古を終え、朝食をとったのちの一幕。

「どうでしたか?」

「ダメ。昨日よりちょっとペットフードを食べる量が減ってる」

 つい先日新たに住人となったラットの忠一の食が細くなっていたことだ。

 二人ともラットどころかげっ歯目の飼育は初めてだったため、獣医師などに相談してペットフードの量などは忠告を受けていたのだが……想定よりも食事量が少なかったのだ。

 何か原因があるのかもしれないが、あるいは単純にあまり食事量が多くないラットなのかもしれないが、経験の浅さゆえに素人判断は避けたかった。

「こういう時、話ができると便利なんだけどね……」

 葵の悔しそうな言葉は単なるペットと会話したいという願望ではない。

 事実として、以前忠一は人語を解していたのだ。

「葵様! 臭いを嗅いでみましょうかワン?」

 元気な声は二人の少女ではなく、同居人ならぬ同居犬であるドーベルマンのアポロから発せられていた。

 ギフトを授かった動物、ギフテッドは人間と会話できる。ただし例外として葵の飼い猫さつまは人語を解せず、いまも腹がくちくなったのか、くあ、と大きく口をあけてあくびしていた。

 それに一抹の寂しさを感じなくもない葵だったが、だからこそお世話をせねばと自分を奮い立たせる。

「うーん。まだギフテッドだったころにさつまを見て怖がってたし、アポロちゃんと会わせるのはもう少し後の方がいい気がするのよね」

「そうですかワン……」

 しゅんと尻尾を下げるアポロ。彼は主に忠実で同時に素直な、ある意味理想的なペットだった。

「ならどうしますか? やはり獣医師に相談しますか?」

 それが一番無難なのは確かだ。今ではオンライン相談なんかも行っているため、昔に比べるとかなりお手軽に獣医師とやり取りできる。

 だが葵には腹案があった。

 ちらりと五月に視線を送る。

「ううん。今後のことも考えると……話を通しておきたい子がいるのよね」

「どなたですか?」

「私の友達」

「……あなた、友達いたんですか」

 五月の表情は変わっていなかったが、その声はかなり驚いていた。


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