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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第52話 救出

 ぐらりとその姿が傾く。

 しかし、なぜか消えない。半身になったまま苦しむように身もだえる。暴走のせいでオールインが正常に機能していないのだろうか。

「さつま? どうしたの!?」

「よくわかりませんがあまり良い状況とは思えません。行きましょう」

 より、近づこうとするが、今まで水の像を形成していた水が解放され濁流のようにこちらを押し出そうとする。

「アポロ! モータスを使います! あなたがさつまを救出して……」

「ダメよ! さつまが苦しんでるなら、私が行かなきゃいけないのよ!」

「そんなことを言っている場合では……」

「何が、なんでも、よ!」

 自分の飼い猫が関わるとタガが外れることを理解している五月は早めに折れた。

「『ベット』」

「『フォールド』」

 五月のアクションに間髪入れず返答する。

「『モータス』。これは移動用のスキルですが移動というよりは射出です。無事は保証できません」

「上等よ! って、さつま!?」

 見ると水の像は逃げるように離れていく。わずかながら上昇しているようにも見える。

「お願い! 早く!」

「かしこまりました、ワン!」

 アポロが地面を叩くと小なりの不等号と大なりの不等号が組み合わさったような図形が出現した。

 考えるよりも先にそこに乗る。

「無事で帰ってきてくださいね」

「ご武運をワン!」

 射出という言い方は間違っていなかったのだろう。

 急速に浮き上がった地面は砲弾のように葵を撃ち出した。

 とてつもない勢いで水の像に突っ込む。

 全身を丸ごと巨大な拳で殴られたような衝撃を受けるが、歯をくいしばって耐える。

 そのまま水の中を泳ぐ。

 息が苦しい。だが、それよりもさつまを失うことの方がもっと苦しい。

 具体的な策があったわけではない。いかなければならないという義務感と行けばわかるという根拠のない確信に従っただけだ。

(さつま。さつま。さつまああああ!)

 柔らかいものに手が触れる。それの正体はわからない。

 しかしそれをしっかりとつかむ。

 すると急速に水が一塊になり、やがて一匹の茶トラの猫になった。

「さつま! ほんとに……良かった」

 思わずぎゅっと抱きしめてほおずりする。こういうスキンシップは嫌われることもあるので普段はしないが今だけは特別だ。

 しかし下の方で叫ぶ声がする。

(ん? 下?)

「皆本さん! 受け身を!」

 下を見るとそこはおそらく二十メートル以上の高さだった。

 水の像は葵が突入してからも上昇を続けていたのだ。

 下には硬いコンクリートの地面。

(あ、ダメだ。これ死ぬ)

 しかしまあいいか、とも思った。多分液体になれるさつまは死なない。

 愛しい猫が生きてくれていることに比べれば、自分の命など些細なものだと笑いながら落ちていった


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