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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第42話 不摂生

 葵はまず頭の中で八村が奪ったマーチェのギフトの情報を整理した。

 洪水に関わる。

 再生、あるいは治癒能力を持つ。

 怪力。

 ショロトルに対して有効。

 倒した相手に能力が移る。

 そして、マーチェ曰くギフトは使えるときと使えない時がある。


 つまり代償は一括型じゃないはず。オンオフを偶発的に切り替えているのなら消費型の可能性も低い。

 おそらく、罰則型。

 なんらかの行為によってギフトが使用可能になったり不可能になったりしているのならこれが最も考えやすい。

(それから、あの不摂生の塊みたいなばあさんならきっと……)


 葵が向かったのは台所。迅速に戸棚を漁る。

「あれ?」

 予想に反してそこにはないと思っていたものがあった。

「何か間違ってる? いや、もしかして……」

 不意に思い出したのは先生の姿。私と暮らすようになったころにはあの人はずいぶん衰えていた。

 そういう時に必要なものは……薬。

 食卓を一瞥すると、予想通り、薬ケースが整えられていた。

 ありがたいことに薬ケースの下側におくすり手帳が置いてあった。それをぱっと読む。

「大当たり」

 薬と手帳、そして秘密兵器をひっつかんでリビングに向かって駆け出した。


 五月とアポロ、さつまの一人と二匹は室内で激闘を繰り広げていた。

 アポロが攻撃の中心であり、さつまは水で相手の視界を塞いだり、滑らせたりと相手の妨害を続けている。

「ああもう! 邪魔さね! 猫!」

 ぶうんと剛腕が唸る。

 もとより液体のさつまはそれが直撃しても、水しぶきを上げただけですぐに元に戻る。

 今度はアポロが右足に噛みつき醜い傷跡を残す。

「ああもう、うっとおしい!」

 今度は足を振り上げ、踏みつぶそうとするがぱっと足を離したアポロがあっさり避ける。とてつもない怪力に床に足がめり込む。

「ご自宅でしょう? 壊しても構わないのですか?」

「またどこかのオーナーを殺して金を奪えばいいわよねえ」

「本当に品性下劣ですね」

「あたしたちは特別なのよ。何したっていいに決まってるじゃない」

 八村のような手合いは何度か見たことがある。ギフトという超常、さらにラプラスにより社会的な透明人間になった全能感により道を踏み外す。

 人間の悪性を証明しているような振る舞いをしているオーナーの典型例。そういう人間に対して五月は怒りしか感じない。

 その怒りを鎮めながら戦況を俯瞰する。

 全体で見れば明らかに押している。八村は完全な素人で、ろくに考えずにギフトを振るっている。

 それでも決定機を作れないのはやはり攻撃の要であるアポロの攻撃が上手く通っていないことが大きい。

(このまま消耗戦に持ち込めば勝てる可能性はあります。敵が新たなスキルを使ったり、敵の増援がなければ、ですが)

 ちらりと外を見る。雨はもはや大雨になっている。

 敵の狙撃手が八村の味方なら積極的に外に出ればいい。一対二より二対二の方が戦いやすいに決まっている。

 一方で水を操るギフトであるさつまを相手に雨の中での戦いは難しいと判断してもおかしくない。

(狙撃手は八村の味方ではない……もしくは利害の一致ていどの薄い共闘関係)

 八村はぶんぶんと暴風のように腕を振り回し、家具や壁を壊し続けている。

(もう一つスキルを使うという手もありますが)

 アポロのギフトには『ルーガム』以外にもいくつかのスキルがあるが、汎用性に欠け、そもそも相性が良くない八村にどの程度まで有効なのか判断できない。

(あと十秒待ちましょうか。それでも皆本さんが来なければ……)

 だが、先に動いたのは八村だった。

 彼女は息を大きく吸い込み。

「『ベッ』」

 アクションを宣言しようとして。

「ちょっと待ったあ!」

 突如として現れた葵からぶん投げられたコップが直撃する。大口を開けていた八村はコップの中身の液体をわずかに吸い込んだようだった。


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