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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第38話 破壊

 古民家カフェに戻ると、誰もいなかった。

 あちらこちらがボロボロで、しかもミツバチの死骸が大量に散乱していたためもはや廃墟のようになっていた。

「五月。あんたの鞄あったわよ」

「助かります。皆本さんは鞄を掴んで追おうとしたんですね」

「反射的に掴んだのよね。ねえ、この店どうなるの?」

「またそのうち再開するでしょう」

「いや、そうじゃなくて……記憶が消えても私たちが暴れた証拠は消えないんじゃ……?」

「いえ……そういう証拠隠滅もラプラスがやっているようです。この戦いに関わるオーナーやギフテッドの犯罪行為はほとんど抹消されるようです」

「まったく関わらない場合は?」

「捕まりますね。ですがわずかでも関わりがあるのなら、どのような犯罪でも捕まりません。それがたとえ殺人であっても」

 つまり、善の神と悪の神の戦いによって殺害された誰かの復讐を成すには最低でもオーナーでありつづけなくてはならないということだ。

「ねえ。松本の自宅に治療のギフトを持ったスズメ……マーチェちゃんがいると思う?」

「どうでしょう。そうなら話は早……」

「『ベット』」

 男か、女かも判然としない何者かのアクションが宣言された。

 この一日で何度も聞いた言葉にいやおうなく警戒心は上がる。

「さっきの狙撃手かしら」

 葵は窓の外をちらりと見た。二人の姿を見るくらいならできそうだった。

「そうだとすると迂闊に外に出るのは危険ですね。私にカードが出現しています。……これなら『コール』」

 五月がアクションを行うとすぐにどこかから言葉が響いた。

「『ムースクルス』」

 葵と五月は身構える。

「私に開示された情報は関連する自然現象……洪水です」

「はずれね。洪水神話を始め、洪水は多種多様な伝承、説話を産んでるわ。絞るのはまず無理」

「それでもないよりはましです。さて、どう動くべきでしょうか」

「私が偵察してきましょうか、ワン!」

「やめておいた方がいいでしょう。あまり私から離れるとギフトが使えなくなります。再生能力にも有効なスキルを使う可能性もありますし……」

「ん? ねえ、五月。あれって確か……」

 葵が指さした方向を五月も眺め、近づいてからそれを手に取る。

「これは……いえ……ですが……」

 そのほんの数秒後。

 とてつもない衝撃が古民家を襲い、木造の家屋ははじけ飛んだ。

 古民家は局地的な災害にあったかのようなありさまで、その災害の中心にあるのは一台の車だった。

 しかしそれは古民家の屋根を突き破り、裏返しになっており、もはや車と呼べるほど原型をとどめていなかった。

 ここから想像できることは単純だ。

 車がどこかから飛来し、古民家を破壊した……単純だが、およそ非現実的な推測しか成立しないだろう。

 その下手人である何者かは古民家に近づき赤く滴る液体と生々しい臭いを嗅いでうすら寒い笑みを浮かべ、マッチに火をつけ古民家に火を放つ。

 ごうごうと燃える炎はすべてを飲み込んでいく。

 ラプラスの影響下にあるせいか、誰一人として警察にも消防にも連絡しようとしない。

 それを見た下手人はくつくつと下卑た笑い声を上げながら、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めたアスファルトを踏みしめ去っていった。

 ……その足元に、白いラットを連れながら。


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