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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第32話 思い出ぼろぼろ

 ふうーとため息をつく。

 気が抜けたせいかくらりとめまいがした。

 とことことさつまが近寄ってくる。頭を少し上げているから、撫でろというサインだ。

 ほぼ無意識でさつまの喉元、次に頬を撫でる。

「大丈夫だった? さつま」

 ふにゃあ、と気の抜けた返事が聞けてほっとする。

 先ほどは胸に大穴があいていた。もしもギフトがなければ死んでいた。そう思うと狙撃手にも怒りがこみ上げる。

「っと、いけないいけない。怒りながら戦うのは良くないって空手の先生にも教わったっけ」

 先ほど買った……のはずだけど半日くらい前の気がする……野菜チップスの袋を開ける。

 まだ残っているペットボトルの水もぐいっと飲む。

 みゃあ、ともう一度鳴いた。

「もしかしてお腹減った? かりかり食べる?」

 みゃあ、とやはり鳴く。携帯していたペットフードを一袋あけ、掌に乗せる。

 舌を動かしみるみると減っていくかりかりを見るのは至福のひと時だ。

「そうだ。カーマデーヴァをオールインした時にボーナスがあるって言ってたっけ。確認して……いや、どうやるのよ」

 うんうんと唸っているといきなり宙にカードが出現した。

「なんだか頭の中読まれているみたいで不愉快だけど……便利だからいっか。どれどれ……何これ。死亡診断書?」

 名前は松本真紀。

「さっきの女王蜂のオーナーの奥さん?」

 状況的に考えればそれしかありえない。

「あいつ、奥さん亡くなってたのにあんなことを?」

 怒りがこみ上げながらも読み進める。

 死因は熱中症。死亡した場所は自宅。第一発見者は松本雄太。

 不審な点はなし。事故として処理されたようだ。

 ただ、死亡診断書の最後の余白に、無味乾燥な字体ではなく乱雑な手書きらしき文字でこう書かれていた。

『おまけだ。松本の代償は一括型。妻の記憶』

「……」

 しばし、沈黙する。

「ああ、そういうこと。あいつが善側か悪側かわからないけど……もしかしたら妻を生き返らせるためにこの戦いに参加したとしたら……それで妻の記憶を奪われるって……むごいことをするわ」

 働くことを嫌がっていたのはおそらく労働時間中に妻が死んだため。女性を求めたのは……亡き妻の影を求めたのだろうか。

「女王蜂……グレイスは知ってたのかしら」

 なんとなくだが、知っていた気がする。

 それでああも健気だったのだろうか。

「ほんと……カーマとラティの神話のバッドエンドじゃない」

 カーマはシヴァにその体を焼かれたのち、悲しみに暮れる妻ラティと生まれ変わってから再会する。

 どういう基準で神とやらがギフトを選んだのかはわからないが、これ以上の皮肉はないだろう。

 私がもしも両親を生き返らせられるのなら、そこまでするだろうか。

 多分、する。

 しなければならない。

 でもそれは。

「あなたを危険にさらすことじゃないわよね。さつま」

 少しだけ離れたところで丸くなった愛猫に声をかける。

 答えはない。

 会話できないことが少しだけ寂しかった。


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