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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第31話 見えざる敵

 ぱらぱらと飛散する羽、脚、体液。

 その小さな体は矢が起こした衝撃と風圧によって空に溶けるようにより小さくなっていく。

「あ、あああああああ!?!?」

 その瞬間、松本はもはや狂乱と言ってよいほど動揺した。

「俺の、俺の……なんだ? あ? 俺は、一体、いつから。あれ、いやそうじゃないそうじゃない、でもそうだった気が……」

 切羽詰まった言葉から一転して呆けたような顔。それを見てグレイスは悲しそうにつぶやいた。

『最……わたくしを見……あな……』

 言葉は途絶えた。

 息も、おそらくは。

 だがまだ戦いは終わっていない。

 ひゅんと風を切る音と同時に矢が飛来する。

「ふにゃあ!?」

「さつま!?」

 急展開に茫然としていた葵たちは反応が遅れた。さつまの体に矢が突き刺さる。しかしさつまのギフトはまだ効果が切れていなかったので、液体となって事なきを得た。

 事態を把握した五月が叫んだ。

「皆本さん! ギフトを切らせないように! 狙撃型のギフトです! 追いましょう!」

「命令しないでくれる!?」

 反発しながらも矢が飛んできた方向に向かって走る。

「っていうか、今の矢よね!? 武器は使っちゃいけないんじゃないの!?」

「例外的に武器とギフトが密接に関わっている場合は止められないことがあります! それに、今のギフトは私も聞いたことがあります!」

「何者よ!」

「善側の生き残り。そしてかつて河登さんと一緒にコピーのギフテッドと戦ったそうです」

「!」

「能力は目視した相手に必ず矢を当てる。戦闘する間もなく多くのギフテッドが倒されたそうです。河登さんもオーナーは何度か見かけたそうですが、ギフテッドの姿は絶対に見せなかったという徹底した仕事人だそうです」

「ち。聞くだけで厄介なやつね」

 入っていく先は人気のない場所だった。今までは田舎ながらも舗装された道だったが、ついに明確に森の中に足を踏み入れることになる。

「アポロ。追えそうですか」

「はいですワン。可能な限り臭いを消そうとしていたようですが、ごまかせませんワン」

 たたたっとアポロは駆ける。

 鋭い犬の嗅覚に十分な知性が備われば、十匹の警察犬よりもはるかに優れた猟犬になりうるのだ。

「ねえ。そもそもなんで女王蜂とさつまを撃ったのかしら?」

「可能性は二つ。何らかの事情で戦闘を察知し、漁夫の利を狙った。あるいは、もともとあの人の仲間で口封じのつもりだったのかもしれません」

「……三人目はいるかしら」

 ゴキブリというわけではないが、一人いれば、二人、二人いれば三人いるかもしれないと疑ってしまう。

「何とも言えません。ですが、厄介な狙撃手を仕留める好機です。逃すわけには……皆本さん?」

 葵は汗を流し、獣道と呼んで差し支えない道のわきにそびえる樹に手をついていた。

「ごめん。ちょっと疲れた。先行っててくれる?」

「そうでしたね。体温の上昇はなくなりましたが、疲労が消えたわけではありませんし、代償も支払い続けています。しばらくここで休んでください。狙撃手は私が仕留めます」

「んー、よろしく」

 とさりと樹に背中を預けた。


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