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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第30話 飛来

 光が収まると、ミツバチはハチクマにでも襲われているかのように混乱しており、部屋から飛び出しているミツバチも少なくない。

 ただ、女王蜂であるグレイスだけはふらふらと漂うように飛行している。

「くそ! この役立たずめ!」

 隠れていた松本が姿を現し、迅速にグレイスを回収する。

「待ちなさい!」

 五月とアポロがそれを追う。

「あ、私も動けるようになってるわね。まだちょっと熱っぽいけど。オールインに成功するとギフトも一時的に弱体化するんだっけ。そうだ。ラプラス。ボーナスもあるのよね」

『ああ。けど読むのに時間がかかるからあとで読むことをすすめるぜ』

 こいつは気に食わないが、一方で判定についてはフェアを貫いている気がする。なら、後でも問題ないはずだ。

「さつま。行こう」

「ふにゃあ」

 猫なで声を出すとしゅたたたと駆け抜ける。揺れる尻尾が実に可愛い。

 おっと、早く追いかけなくては。


 ぜいぜいと息を切らして、グレイスをその手で包んで松本は駆ける。

『あなた。もう無理です。わたくしを……』

「だまれ! 俺は、俺はもう……くそ何だったか。いや、違う。そうだ、これでいい。そうだ、みんな俺のために働けばいい。俺が働かなくていいように……」

 正気ではない様子でぶつぶつと支離滅裂な言葉をつぶやく。

『……可哀そうな人』

 グレイスの独り言は誰も聞いていない。

 そして日ごろの運動不足がたたったのか、それともただ運が悪かったのか、松本は盛大に転んだ。

 一人と一匹の体が地面に打ち付けられる。

「が!?」

『きゃあ!?』

 よろよろと松本が立ち上がる。

「残念ですが逃走劇はこれでおしまいです」

「は! 御用だワン!」

 五月と犬のおまわりさんになりきったアポロがあっさりと回り込み、立ち塞がる。

 やがて追いついた葵とさつまで挟み撃ちの形になった。

「大人しくサレンダーするなら傷つけるつもりはありません」

「サレンダーって……ああ、負けを認めるってことね」

「はい。サレンダーすればギフテッドの知性はなくなり、オーナーのギフテッドの記憶も無くなりますが、身の安全は保障されます。ただ、代償が一括型ならそれはもとに戻りませんが」

 ぎり、と歯を食いしばる音がする。

 実のところ、葵も五月も少し脅せばすぐに降参するだろうと予想していた。

 何しろ女が欲しい、働きたくないと駄々をこねる大人だ。ろくな気概があるわけもない。

 しかし松本は決然と叫ぶ。

「断る!」

「あら」

 葵は意外そうに。

「そうですか」

 五月は冷静に。

 しかしどちらも女子高生とは思えないほど剣呑な殺気を放っている。

 だがそれを無視して松本は独白する。

「そうだ。ここで絶対にあきらめない。諦めたらもう何もない。取り戻して取り返して、何を取り戻せばいいのかわからないけど、ここで戦って、きっとそうすれば全部上手くいってそれが幸福になるための秘訣で、俺は間違いなく幸せだから……」

「何? こいつ、あたまおかしいの?」

「……ただの時間稼ぎでしょう」

 二人の困惑した声に反応したのはグレイスだ。

『お二方とも。この方への侮辱は許しません』

 グレイスは羽ばたくことができなかったが、その六本の足には力が戻りつつあるようだった。

「ふうん? 大した忠誠心ね。選択肢はないわけだけど」

『どうとでもおっしゃいなさい。わたくしはこの方の……』

 グレイスの言葉は終わらなかった。

 グレイスの体に何処からか飛来した矢が突き刺さったからだ。


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