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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第21話 犯人捜し

 ふらふらとした足取りで風呂場に向かった葵を見送り、五月は一枚の写真を取り出した。

 そこには数年前の、笑顔の自分自身がいた。

「五月様。大丈夫ですか、ワン?」

「平気ですよ。一括型の代償を持ったオーナーならたいていやっていることです」

 消費型や、罰則型の代償になっているオーナーは代償を大量に支払ったり、禁じられた行動を長時間とらなければギフトを強化できる。

 だが一括型はすでに代償を支払っているため、ギフトを強化する手段がない……と思われがちだ。

 実際には失われた部位などを強く思い出すことで一時的にギフトを強化することができる。そのため、一括型の代償を持ったオーナーは過去の自分の写真などを持ち歩いていることが多い。

 五月の意志に応じてアポロはぐるると唸り右前足を踏みしめた。その傷ついた足は再生し、二つに分かれる。すべての足でそれを繰り返すと八本脚の犬という奇怪なモンスターが誕生したが、その足は以前葵と戦った時よりも幾分太かった。

 そのまま言い争っている二人の男女に近づいていく。

「じゃあどうしてここから出られないのよ!」

「俺に聞いたってわからねえよ! 俺だって出られないんだから!」

 金切り声を上げている女性はおしゃれに気を使っていそうな観光客らしかったが、反論している男性は農作業などを行っていそうな無骨な服装だった。

 二人はここから出られないことに苛立ち、議論がかなり白熱……というかお互いに八つ当たりしているようだった。

「失礼します」

「はあ!? 何よ、あん……!?」

「な、なんだよその犬!?」

 五月の背後に控える異形のドーベルマンを見て女性と男性は硬直した。

 現実的に存在しないはずの怪物を見たときの反応としてはごく普通だ。そして、ここで重要なのは。

(アポロの姿をきちんと認識していますね。この中にはオーナーではない人間も交じっているはずですが……この空間に閉じ込められた場合誰もがギフテッドを認識できると考えたほうがよさそうですね)

「ひとまず静かにしてもらえますか。それと、よろしければお名前を」

 背後で唸るアポロ。ドーベルマンの本能なのか、騒ぎたてる連中を黙らせるには牙を見せるのが一番だと知っているようだ。

「か、香山佐奈よ……」

「お、俺は松本雄太だ」

 びくびくと怯えながら答える。おかしなところは見当たらない。

「香山さん。松本さん。申し訳ありませんがしばらくそこに座っていていただけませんか?」

「バウッ」

 屋内の席を指さすと同時にアポロが吠えたてる。びくっと震えた二人は大人しく従った。

 敵であるオーナーに自由を与えるのは好ましくない。証拠を隠滅されるリスクがある。一か所にまとめてお互いを監視させておけば何もできないはずだ。

「次は店主さんですね」

 五月は店の中に足を踏み入れた。

 五月と男女のやり取りを見ていた初老の店主は何をするまでもなく怯えていた。

「き、君は、一体何なんだ? 私の店で何をするつもりなんだ?」

 やや薄くなった頭をハンカチでふきながら、しどろもどろしている。

 黒色のエプロンからえんじ色のシャツが覗いており、こちらもやはりごく普通の店主のように見える。

「店主さんのお名前を教えていただけますか?」

「え? 黒井、黒井傑だよ」

「そうですか。黒井さん。私たちのほかに人はいますか?」

「いいや。あの男の人と女の人、それに君たち二人以外店には人がいなかったはずだけど……」

 三人。

 単純に考えれば三分の一で正解する。もちろん、どこかにオーナーが隠れ潜んでいる可能性もないではない。

 ただ、不正解のデメリットがわからない以上、可能であれば一回で正解したい。

「黒井さん。現在このあたりから出られなくなっています。あの二人の近くにいてください。あと、それと……」

「な、なにかな……?」

「ここは自宅としても利用していますよね。なら、冷蔵庫や冷凍庫にあるものを勝手に使わせていただきます。あと、タオルもお借りします。構いませんね?」

 強盗もかくやと言わんばかりの要求を平然と口にした五月に黒井はこう帰すのが精いっぱいだった。

「それ、私が断ってもやるつもりだよね……?」

「はい。ですが一応確認を取らなければいけませんから」

 五月は常と変わらぬ鉄面皮だったが、黒井の顔はひきつっていた。


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