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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第一章
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第17話 西へ

 大水市は都会と田舎の中間にある場所と、少なくとも葵は思っている。

 東に行けば都会。西に向かえば田舎。

 今回は西に向かうため、議論の余地のないほど田舎に向かう。電車の窓から見える地面もだんだんとアスファルトよりもむき出しの土が多くなり、ビルよりも緑が豊かになる。

 電車の車掌はワンマンで、乗客も少ない。

 だからといって。


「さすがにドーベルマンが車両の中をうろついていて何も言われないのは異常よね」

 ロングシートに五月と並んで座る。一人分と少し、間隔をあけているのはお互いの関係を示しているのだろう。

 最悪の場合山歩きになることも想定して二人とも動きやすい服装をしている。

 葵は念のためにさつまをキャリーバッグに入れており、ぺろぺろと毛づくろいをしている。ちなみにさつまはあまりキャリーバッグを嫌がらないタイプの猫だ。猫によっては大変らしいのでこの辺りはとても助かっていた。

 問題はアポロちゃんだ。

 でん、と車両のど真ん中にお座りしているが、誰一人見向きすらしない。

「この辺りもラプラスがやっているようです。ついでに言うとオーナーでない人を戦いに巻き込んでも記憶を変えてしまうそうです」

「……ぶっちゃけギフトよりラプラスの方が脅威よね……」

 選手より運営側が強いのは当然かもしれないが、どうにも納得いかない。

 ふと疑問があったので聞いてみる。

「ねえ、もしかしてギフテッドって写真を撮れないの?」

「一部の状況ではそうですね。こういう普段いてはいけない場所では記憶にも記録にも残せません」

 ふーん、と言いながらおすわりしているアポロちゃんの写真を撮ると無人の車両があるだけだ。

「そういえば私たち外国語がわかるじゃない。あれもラプラスがやってるの?」

「いえ、あれはオーナーの特典のようなものらしいですね。円滑にオーナー同士のコミュニケーションを進めるためだとか。上手くやれば私がやったようにオーナーの特定も可能です」

 なるほどねー、と言いながらキャリーバッグを持ち上げて背後のガラスを見た。

 なるほど。

「っていうかさ。忠一ちゃんを渡した人いるじゃない。あの人たちも特害対のメンバーなの?」

 電車に乗る前に、清掃人のような恰好をした人たちに忠一ちゃんをケージごと渡した。

「そうです。オーナーではありませんが、ボスの部下のようですね。記憶については何らかの対策を練っているらしいです」

「そうじゃなくて……車で送ってもらった方がよかったんじゃない?」

 これから行くのはド田舎だ。

 行きは上手く電車が捕まったからいいものの、帰りが遅くなれば終電に間に合わないということもあり得る。

「オーナーの移動に他人の車を使うのはあまり推奨されません」

「巻き込むなってこと?」

「それもありますが……一度戦闘になると私たちはほとんど透明人間に近い状態になります。これは対策できないそうです。つまり車に乗っていたはずの人間がいきなり消えてパニックになり事故を誘発することがあるようです」

「自分で運転できればそういうことも防げるんだけどね」

「そればかりはどうにも。あと、車に乗っているとラプラスが妨害してくることもあります」

「どういうことよ。あいつ中立でしょう?」

「それはあくまでもギフテッド同士の戦いでの話です。原則として兵器や乗り物を用いての戦闘を望んでいないようですね」

 理屈はわかる。

 確かにギフトは超常現象だ。しかし拳銃や猟銃で対抗できないかと言われればできなくもないだろう。もっと極端に言えば戦車や戦闘機でも持ち出されれば勝ち目はない。

 神々とやらが見たいのは人と動物の美しい友情なのだろう。だから近代兵器にはご遠慮願う。

「……上から見下されているみたいで腹立つわね」

 五月は答えない。

 しかし心の中でも反論していない気がした。


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