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うちの猫は液体です  作者: 秋葉夕雲
第二章
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第41話 若さ

「この子供が委員長……? 今更驚かないけど……」

 さんざん奇妙なオーナーたちを見た後では、小学生のオーナーくらいでは動揺しない。

 だが、曲がりなりにも委員長という立場のある人物が子供であるのは違和感がある。

「……ちなみに、草野さんの実年齢は42歳です」

「は!?」

「うえ!?」

 思わずじろじろと草野を眺める葵と真子。

 少なくとも42歳の体格や容姿ではなかった。何らかの異常事態が草野の身におこっていると考えるのが妥当だ。

「もしかして……ギフトの代償?」

「そうなんだよ! 俺のギフトの代償は年齢。使えば使うほど若返る……ってわけじゃねーんだよな」

 草野の言葉を注釈するように五月が続ける。

「草野さんは体こそ若返っていますが、中身はもとのままだそうです。本人曰く精神年齢も若干下がってるそうですが」

「勘弁してほしいぜ。せっかく若くなってるのに腰痛とか老眼とかそのままなんだぜ? 記憶力も落ちてるし」

「それはまあ、同情するけど……」

 まだ高校生の葵にはぴんとこない不幸だったが、辛いというのは想像できた。

「ま、つまり見た目は子供、頭脳は大人! 健康はおっさん! それが俺!」

 びしっとどや顔で親指で自分を示す草野。

「……それ言いたかっただけでしょ」

「……初めて会う人にはだいたい言ってますよこの人」

 露骨に呆れる葵と五月に対して真子はどう反応していいのかわからずにおろおろしているだけだった


「ま、そういうわけでここからは俺が案内する。みんな、自己紹介したか?」

「ひひ、わたくしはもう済ませましたよう」

「うん! 僕もすんだよ! さすがに全員を紹介はできないしね!」

「ベンちゃんの自己紹介がまだよ!」

 ポルチーニとサーシャは良い返事をしたが、子育てに悪戦苦闘中のベアトリクスは奥の方の部屋からどどどと地鳴りのような足音が響く。

 彼女の首元には二歳くらいの幼児がしがみついていた。

「おお。これが熊にまたがりお馬の稽古ってやつ?」

「この光景をみるとほとんどの日本人はそう言うそうですよ」

「想像力が貧困だって言いたいの?」

「そういうわけではありませんが」

「じゃあどういう意味……」

「もう! 二人とも喧嘩しない! はい、ベンちゃん! ご挨拶!」

 くりくりしたお目目の幼児、欧米人らしきベンは二度、三度と五月と葵(真子は五月の背中に隠れていた)を眺めてから。

「あ」

 なぜか彼は万歳した。

「?」

「……?」

 葵と五月は何が何やらわからない。

 そして約三秒後。

「う、うえええええええん!?」

「え!?」

「うえ!?」

 突然泣き出したベンに二人は戸惑うしかない。

「あらあらあら! また泣いちゃった! ごめんね! イヤイヤ期だから! すぐ泣いちゃうのよ!」

 そう言ったベアはベンを宥めにかかった。

 ぽかんとする二人に草野が言葉をかける。

「ガキの世話はベアに任せとけ。今いる奴はだいたいあいさつしたな。じゃ、三人と三匹、俺についてこい!」

 どうも身内と円滑なコミュニケーションを取れるように策謀を巡らせたらしい。明らかに怯えまくっている真子の顔を見ると上手く行ったのか判断は難しかった。


 日の光が届かず、人口の明かりに照らされた廊下を歩く。時折一般の職員らしき人ともすれ違ったが、大体草野に会釈したり、反対に冗談を交わしていた。

「どうだ? うちの連中と始めて会った感想は」

「変な人ばっかね」

「び、びっくりしました」

 二人とも率直な感想を口にした。そしてふと気になったことを口にした。

「そういえば結構外国人が多かったわね。オーナーだから会話はできてたけど」

 オーナーはギフテッドを含め、ありとあらゆる言語で会話できる特権を持つ。ただ、今まで日本人のオーナーとばかり会っていたので意外ではあった。

「あー、悪側は外国人多いな」

「悪側ってことは善側は違うの?」

 これに答えたのは五月だった。

「善側のオーナーはほとんど日本人、もしくは日本に居住していたことがある人です。意図的に選別されているため、同じ民族なら都合がよいと判断されたのでしょう」

「日本人の理由は何なの?」

「はっきりとはしてねーよ。そこそこ裕福で一神教の影響が薄い国だからって言われてるな」

「なるほどね」

「え、え? ど、どういうこと?」

 納得した葵と理解できなかった真子は対照的だった。

「一神教ってのは神様が一つしかない宗教なのよ。だから善の神と悪の神との戦いって時点でもうアウト。ギフトには多神教の神様も含んでるからツーアウト。さらに聖書には人間は動物を支配すべし、なんて書かれてもいるから神の力を振るっているのが動物っていう点でスリーアウトね」

「葵だっけ。マジで詳しいんだな」

「父の教育の賜物よ。それと、念のために聞いておきたいんだけど」

「ん? なんだよ」

「善側は日本人が多いって言ってたわよね。もしかして特害対にもともと善側だった人物がいるの?」

 ぎょっと驚く真子、無表情で黙る五月。にやにや笑う草野はそのまま。

「そうだよ。俺はもともと善側のオーナーだ」

 あっさりと秘密を暴露した。


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