第八話
その日の放課後、橋崎が安堵したような声をした。
「じゃあ、牡丹ちゃんの電話は解決ですか」
「うーん、そうかもね」
「どうしたんですか?」
勝平がつまらなそうに言う。
「心霊写真の謎が解けてねーだろ」
「あっ」
橋崎の顔が強張る。牡丹ちゃんの電話を試した夜、写真を撮っていたというのは覚えているだろうか。その際、撮影した写真には吉田梓の肩のところに人の顔が写っている。
「あらためてその写真を見せて貰えるかな」
「は、はい」
橋崎はこっそりと携帯電話を渡してくれた。たしかに、人の顔がある。シュミラクラ現象──人間には3つの点が集まった図形を人の顔と見るようにプログラムされている、という脳の働きである(Wikipedia「シュミラクラ現象」より引用)──とは違い、本当に輪郭すら浮かび上がっている。耳もあり、髪型もわかる。
「これ……顔だね……」
「はい、顔なんです……これ、梅田先輩の怨念とかでしょうか」
「顔があの人とはまるで違うね。もしくは……うーん……」
隼人は唸る。どうにも違和感がある。
「とりあえずこの顔について調べてみるよ」
「梓ちゃんは取り憑かれているんですか!?」
「それも追い追いで調べていくしかないね。俺達はたしかにこういうことに詳しいけれど、多分皆が思っているような『詳しい』ではないから」
隼人は「大丈夫!」と返して、「ラーメン好き?」と尋ねた。橋崎は「とても」と遠慮気味に答えた。
三人はぺーたるに向かった。
「今日は食べに来たよ! おやっさん! いつもの!」
「あいよ」
「ダイズ振ろう」
「俺の勝ちだったろ」
隼人は舌打ちをした。
「ダイズっていうのは?」
「俺達、二人でいつもどっちが奢るかっていう賭けをしてるんだよ。前はこいつが負けたからこいつの奢りなんだ」
「そうなんですか」
「勝てた試しがないね」
「いっつも俺が勝ってんだ」
勝平が嬉しそうに言う。
「今日は橋崎さんの分も奢るからね」
「えっ、いいですよ、私は自分で払いますよ!」
「いいっていいって! たかだか一杯五百円程度だし」
隼人は笑ってみせた。
橋崎は、隼人を見て「大きな人だなあ」と思った。
いつも微笑んでいるし、優しいし。怒るときは人のため。
こういう人を見るのは初めてで、とても新鮮な感覚だった。
地声の低い声は怒っているように思えて、不気味だが。
「ここのラーメンはあっさりした奴もあって美味しいんだぜ」
「醤油しか食わん癖になあ、よく言うぜ」
「ユリさんとかが味教えてくれるもん」
「もんじゃねーよバカ」
「なんで酷いこと言うの」