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エクストラムマン2  作者: モッズコート
怪の六 T先輩
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第五十七話

「見ての通り、私はエクストラムマンだ」 


 なんでもないように、T先輩は言いました。


「ずっと隠していたんですか」

「明かすメリットがないため隠していた。気に障ったのならば謝罪する。が、今更その話を蒸し返したところで大した意味はない」

「だけどさあ! だけど、なんかあるじゃないですか! だってほら、なんか……何て言えば良いんだろう」

「発言の際は頭の中で言葉を纏めることをおすすめしよう」

「えぇ!? それは、まぁ、そうだけど……!」

「お前もおかしな奴だぜ、隠してるんじゃないのか。咄嗟にお前に合わせたけどさ」

「彼は信頼できる人間だ。もともと隠してはいない。明かすメリットがないというだけだ。是と非の選択を誤ることは、人間の格を落とす切っ掛けになり得るぞ」

「喧嘩か?」

「やってもいいが、やるメリットがない。これと同じだ。Aくん」


 T先輩は座り込んだAさんに視線を合わせるように地面に肩膝をつけて、Aさんの手をとりました。


「君は聡く脳みそも博い。ゆえに、信頼し正体を現した。もしこの私の選択が誤りであったのならば、謝罪する。しかし、私はどうも他に手段が浮かばない。どうしてほしかったのか、という要望があったのならば、次に誰かに正体を現すときの参考にするために、意見を聞きたい。頼んでも良いだろうか」

「なっ、なーんで手を取るんですかあ! ちょっと落とされてるみたいで怖いなぁ! ……たぶん、T先輩って人の気持ちとかを感じとる能力が欠けているんですよね。……だってそうじゃなきゃいきなり人の手をとるような真似は取らないでしょ」

「ああ。よく言われる」

「よく言われるんですかぁ!?」

「ああ。よく言われる」

「だってこいつ昔から頭が壊れてるんだもん」


 S先輩がなんでもないように言いました。


 慣れているらしい。


「S先輩はいままで彼になにも教えてこなかったんですか!? だって彼ちょっとなんかおかしいですよ!? なんか、なんかちょっと雰囲気が普通の人とはちょっと違いますもん! いまだから言うけど、なんか前々からちょっと怖いですよT先輩」

「すまない」

「T先輩の言い分も理解できるんですよ。たしかに僕はとても素晴らしい人間だから、言い触らさないと誓いますけれど、でもなんかめちゃくちゃ混乱しますよ。あの場面しかなかったっていうのも『それはそうだなあ』とは思うんですけど、何て言うのかなあ、体験した人間じゃないとわかんないですよたぶんこれ。えっと、あの、ものすごく、とにかくものすごく混乱します。世界の英雄のうちの一人が学校にいるちょっぴり恐ろしい先輩とか普通考えつきませんもん!」

「中学生のころ身バレしたぞ」

「そうなんですか」

「ああ。大いにバレた」

「そうなんですか~」


 じゃあなんで取り沙汰されてないんだろう。

 普通に謎すぎたので、Aさんは首を傾げました。


「まぁいいんですけど。次からはこんなことしないほうが良いですよ。ちょっと意味わかんない」

「ああ。気をつける。ありがとう、Aくん。君はやはりいい子だ」

「子供扱いはやめてください」

「そのつもりはなかった。すまない」

「いいですけど~! もー! ちなみに! あの怪異はどうしたんですか」

「全身に刃物を突き刺して殺した」

「よりにもよって!?」


 よりにもよってその殺し方!?


 AさんはとうとうT先輩の頭が理解できなくなりました。


「怪異というのは極端な話ただ単に悪意と力を植付ける寄生虫だ。脳みその中に有る思考や体験は取り憑かれた本人の物だ。つまり、トラウマとなっている行動をもう一度味わえば怪異の思考は混乱する。そうすると動きが鈍くなって殺しやすくなる」

「ちょっとそれなんか普通にダメそう! さすがにちょっとそれなんか普通に、なんか、なんかダメな気がして来る! いやまぁ、たしかにそれが一番良い手なんでしょうけど! エクストラムマンであるT先輩が言うならそれが一番良い手なんでしょうけど!! だからといって可哀相な人に可哀相な事をするのはちょっと拒絶感というか、そういう反応はないんですか」

「死んでいる人間に人間としての尊厳は存在しない。怪異に取り憑かれているのならばなおさらだ。いまさら拒絶反応を示していたら、それこそ示しがつかない。幽霊に同情することはタブーとされている。それでなくとも、君は可哀相だからという理由でこれから人を多く殺すかもしれない存在を許すのか。人食い熊は人を食うのだぞ」

「そうなんですけど……なんか、なんかさぁ~!」


 そこで、S先輩が間に割って入る。


「はい、そこまで。お前ちょっと言い過ぎだ。Tが泣きそうになってる」

「そうなんですか?」

「S、私は大丈夫だ。彼は私に暴言を吐いているわけではない。忌憚のない意見という奴だ。そしてそれは役に立つ」

「だからって我慢はいけねぇよ。間を挟め! 間をよ!」


 どうやらS先輩はT先輩と長い付き合いだから、T先輩の無表情の中に漂うたしかに有る感情を読み取ることができるのであります。

 しかし、Aさんからしてみれば、やばめのボディガードでしかありませんでした。


「でも、なんかすいません。言い過ぎました」

「ああ。構わない。君のような『ずばり』と言ってくれる人はありがたい。私の友人はどうしてか私のことを肯定してしまう。否定してくれる君が私は好きだ」


 く、口説かれてる~!


「口説くな」

「口説いてはいない。おかしな考えは止したまえ」


 少し焦ってる? と、Aさんは思う。口説いていると思われて焦ったのだろうか。何故だろう、AさんはだんだんT先輩の感情がわかるようになってきました。

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