第四十一話
翌日、敷咲村を発つ。
旅行鞄に詰め込めるだけ詰め込みながら隼人は欠伸をかいた。
「隼人起きてるか?」
「お? おー……」
「隼人兄ちゃんいつも朝弱いんだ」
隼人に抱きしめられながら寝ていた所為でシンジは全身を懲り固めてしまっていたらしい。
痛そうにストレッチをしながら勝平に応えた。
「あんま隼人を甘やかすなよ」
隼人は一人では眠れない。一人だと、眠ろうとすればするほどドツボにはまって眠れなくなるし、無理矢理眠らせれば悪夢でその日一日吐き気がおさまらない。
だからいつもシンジに抱き着いて寝ている。
抱き枕でも眠れないらしく、生物でないといけないらしい。
「でも隼人兄ちゃん可哀相で仕方がない」
「困ったら俺か絢に投げて良いんだぜ、ほんとに」
「別に良いんだ! 俺隼人兄ちゃんに抱かれるの好きだもん」
「ほーん。〝聖人〟やね」
絢は隼人にマフラーを巻付けて尻を叩いて起き上がらせた。
「ほらみんな呼んでっからさっさと出るぞ」
「んいー、歩きたくねー」
「歩け!」
「だっこ~」
「寝起きのこいつキモ。スキー合宿でもこれ?」
「スキー合宿の時は柔道部の奴らが神輿みたいに担いでた」
「愛されてんなあ」
「絢、だっこしてくれたらだっこしてあげるよ」
いつもは無理矢理高くしている声が気が抜けて地声のとてつもなく低い声に。脊髄まで響くほどの重低音が癖になる。
「体格差考えろ!」
「勝平……」
「ガチキモ! こいつ普段どうしてんの」
「隼人兄ちゃん起きてから直ぐに珈琲飲んでるよ。今日は飲んでないけど」
「絶対それだ! 勝平珈琲持ってる!?」
「あーすまん、切らしてる」
「シングス! 珈琲ある!?」
隼人の影から缶珈琲が物凄い勢いで飛び出してきて、股間に直撃する。隼人は股間を抑えてバタンと倒れた。
「種無しだ」
「一回女にしてから男に戻すとキンタマ復活する」
「もう性別を変えることにハードルとかないんだ」
「いつでも戻れるし」
幸いタマは一つしか潰れていなかった。
絢は隼人に性転換薬を飲ませて女性に転換したあと、また男に戻す。そして、今度は珈琲を飲ませた。
「なんか一回女の子になった気がしたぜ……?」
「気のせいだと思う」
「めっちゃおしっこ漏れそう」
性転換薬の利尿作用である。
「とりあえず便所行ってくるわ。なんか変なこと言ってゴメンね」
「お前はいつも変なことしか言わねぇし」
「この中で一番まともだろ」
「それはないと思うよ、隼人兄ちゃん」
「やーいやーい、言われてやんのー」
「悔しーい」