第三十七話
守術痕は身体能力の強化が出来る。守護者はこの能力を使い、大幅な戦闘能力の強化をしている。守術痕の正体は霊力の塊だ。それが細胞を刺激する事で身体のリミッターを解除する。
霊力には種類がある。
①熱血性。色はマゼンタ。
②冷徹性。色はシアン。
③快楽性。色はイエロー。
この三種類である。
守護者はたいてい熱血性か快楽性で、冷徹性というのはあまり見ない。しかし今期はやけに冷徹性が多い。
それはさておき。
「隼人、君は冷徹性だから、冷徹性に合った練習方法を行おう。君は飲み込みが早いから直ぐに身につくだろう」
「冷徹性に合った練習方法?」
隼人は首を傾げる。ティユルシは頷いた。
そして、ゴトッとなにやら怪しげな物が畳の上に転がった。
それはまるでチェーンソーの様に見えるけれど。
はてこれは一体なんであろう。
隼人は怪しげなチェーンソーから目が離せなかった。
「これを使う」
「それを」
「チェーンソーなんて伐採にしか使わないだろ」
「何を言うか勝平くん。チェーンソーというのは元々十八世紀の整形外科学者ベルナルト・ハイネによって発明された」
「でもそれマ○タじゃん」
「そうだが?」
「そうだが……?」
めっちゃ人格破綻者なのかな、と勝平は思う。
「でもまぁ、それで何か変わるならやろう! それをどう使うの?」
「君の頭を一度これで引き裂く」
「なるほど」
隼人は少しだけ思考してみる。
いろいろと巡らせて、メリットとデメリットをベースにこの行為が有益であるかを確かめているのだ。
「オッケー、やろう」
「「ハァ!?」」
勝平と絢が同時に叫ぶ。
「お前、お前バカじゃねぇの!?」
「違うんだ、勝平。絢。必要だからやるんだよ。俺も必要じゃなきゃやらないよ。安心して。ティユルシはこういう場合の備えを知ってるんだろ。なら、それは前例があった筈だ。前例があるならそれに続く事は難しいことじゃないでしょ。ねっ、気合いと根性!」
「気合いと根性じゃ済まねぇょ! 頭を切り裂くって言われてんだぞ! 稲妻でも再生できないだろ!?」
「ティユルシ、そこはどう?」
「備えはある」
「じゃあやれる。畳にシミが出来たらいけないから何か敷きたいな……」
「うむ。勝平くん。絢くん。隼人の影の端の方を引っ張ってこの杭を打ってくれ」
真っ白い杭が畳にボトッと落ちた。納得は行かないものの、一度決めたら隼人は曲げない。奈津子由来の我の強さ。
しょうがないから、二人は隼人の影を伸ばして部屋の四隅に打ち付けた。
特別な杭だから影をそこに固定できるのだ。
「影って伸びるんだ」
「隼人の影は膨大な量の記憶により膨れ上がってる。潜ってみれば分かるが、高さ四十メートルの階層が百七層続いている」
「住み心地良いんだろうな」
「ではやろう」
「ちょっと待って」
絢が疑問を口にする。
「猫の手でチェーンソー振るえないだろ! 俺達がやるのかよ」
「さすがにそこまで酷いことはさせられない。君達は後ろを向いていなさい」
「よかったー。一生分のトラウマになるところだったぜ」
二人がくるりと壁を向くと、ティユルシは形を変えて、美女の姿になった。
「おっ、人になれるんだ。母さんに似てる。綺麗だね」
「ふふ、ありがとう。それでは行くぞ」
「ばっちこい!」