第三十四話
それから、村の蕎麦屋に全員で訪れた。
「うわ、ここやば。なんかの映画で使われたらしい」
「なんて映画」
「デトックス殺人事件らしい」
「デトックスに人殺す機能無いだろ」
隼人と勝平は漫才のような会話をしていて、絢はシンジにパンフレットの読み方を教える。
運ばれてきたのは「雪の月そば」。この村の名物である大根を大いにおろして、そこに卵黄を落とした蕎麦。とてもうまい。
「大根おろしがあんまり辛くない! 俺これ大好きです」
「いいなあ、心身がともにあったまっていく……」
「隼人さん、椅子の足にコート挟んでますよ」
「ガチ? うわ、マジだ」
「汚れ落とします?」
「外の雪で下ろすからいーや!」
うーん、と唸りながら絢はユリと隼人のやり取りを見る。
今朝までの自分なら此処で危うさを感じていたが、「来年の七月八日」があるおかげで、だいぶ心に余裕がある。
「このあと何処行く?」
裕次郎が言う。
「雪像展示見に行きたいっす」
隼人が答える。
「俺もー」
「隼人兄ちゃん、雪像展示ってなに?」
「雪を固めて色んな物を作るんだな。粘土やったことあるだろ? あれの雪バージョン」
「粘土って、マサユキ兄ちゃんと隼人兄ちゃんが警察呼ばれた奴?」
「まさしく!」
そういえばちょっと前に隼人の家の前にパトカー止まってたな、と勝平は思い出す。なにを作ったんだろう、と絢は思う。
「もう塀におちんちんつくっちゃダメよ?」
奈津子が言う。
「んまあ、悪ノリっすよね」
「ね。でもあれ隼人さんが八割悪い」
「まだ押し付けられる。俺はあれ猫のウィスカーパッドのつもりだったのに兄さんがなんか垂れてる棒付け足したんじゃないか」
粘土でちんこ作る史上最も珍しい「萎えちんこ」だったらしい。
「でも『もっとやれ!』って言ったのは隼人さんだよ」
「もっとやるとは思ってねぇもん」
閑話休題。
「え、じゃあ雪像展示ってちんこあんの!?」
「たぶん無いと思うけどあったらヤバい」
「あったらいいね」
「ちんこは別に誰も望んで無いんじゃないかな」
「ちんこ付いてたらお得って言うだろ」
「それ人体の話だろうがよ。雪像展示にちんこついてたら忽然と不愉快だろうがよ」