第三十二話
隼人達は郷土資料館に訪れた。
掛け軸なんかを眺めたりして、隣に立っている絢を時折見てみたりする。目が合って少しドキッとしたりする。
そして、「いまはどっちなんだろう」と考えたりもする。
絢は色々あってから「性転換薬」という物を手に入れた。
もとも中性的な人ではあったけれど、此処に来て「どちらにもなれる」を提示されてしまった。
隼人は己に降りかかる恋路という物を考えた。
やはり、自分に恋愛は百年早いのではないか、と思う。
やっぱり、自分と絢は似合わない。
なにより、自分は少し臆病過ぎるのだと自己分析。
恋に奥手と言えば聞こえは良いがただの童貞だし。
とはいえ中学二年生なのだから童貞でも良い筈だし。
というような、おかしな思考に陥ってしまう。
隼人のIQは六百程度。
しかし、その程度の高知能、恋愛にかかれば焼かれてしまって使い物にならない。
自分がもっと物事をはっきり捉えられる人間だったら。
それこそ、勝平のように。
そこまで、考えて、「やっぱり」と思う。
やっぱり、絢も選ぶとしたら俺じゃなくて勝平だよな、と。
前にティユルシは「絢は別に勝平が好きという訳ではない」と言っていたけれど、上位存在の言葉を信用して良いのかどうか。
失礼なことを言うけれど、上位存在って人間如きの思考が理解できるのだろうか?
人間はアリンコの思考はわからない。
根拠にならないヒソヒソ話に一喜一憂して居ては男の中の男になれないのではないか。
頭の中で思考がぐるぐると回って、目が回る。
恐ろしい位に人間が苦手だ。
絢ってそもそも好きな人とかいるんだろうか。
いたとしたら、誰なんだろう。
知ってどうこうという訳ではないし、知らなきゃいけないという義務もあるわけではないけれど、気になる。
絢と隼人は違う学校に通っている。
絢にはもちろん隼人の知らない人脈がある。
もし、めちゃくちゃかっこいい人が居て、その人に惚れていたら。もしかしたら、性転換薬をいつも持ち歩いているのはその人の為だったとしたら。
そこまで考えてみると、ふと胸がモヤモヤしている。
ううんと唸って、首を傾げる。
こういう思考は似合わない。
思春期だから。ただの、思春期思考。