第二十九話
翌日、隼人と勝平が揃ってぺーたるでラーメンを食っていると、勝平がスマートフォンを取り出して「温泉旅行だって」と隼人に見せてみた。
「敷咲村?」
「なんか県北の山中に有る秘湯村らしい」
「秘湯かあ、いいね。秘湯。俺『秘』がつく物が大好き」
「いまなんかのサービスで一家族一万だって。ここ皆で行かね?」
「マジめちゃくちゃそれ良いじゃん」
天才的発想、と隼人は喜んだ。
隼人はこういう「皆で楽しめるイベント」という物が大好きだった。そもそも隼人は人と関わるのが好きで、新しい友人が出来ると見てわかるくらい興奮する。
表には出すまいと努力しているらしいが。
そういう訳で、隼人は正しくこういうイベントには積極的に参加したいという心持ちでいた。
皆で温泉! 皆で雪景色!
そう考えれば考える程に、心は躍る。心は喜ぶ。
「提案してみようぜ」
「おん! うん! え、え、誰誘う。みんな誘お」
「落ち着け」
「いやガチ、普通に絢ん家誘お! 光星んトコも誘お! えっと、あとは寂米どうする?」
「めちゃくちゃ難しいだろ。あいつたぶん肩身狭めの想いすんぞ」
「そっか、いきなり内輪ノリが形成されてるグループの中に単身乗り込むのはさすがにダメか。もっと仲良くなってからだね」
「あと普通にあいつ守護者だし。県外に泊まり込みは危ないだろ」
「確かに。お土産で許してもらお」
寂しそうな顔をしてしょぼんとする隼人だった。
勝平は「仕方の無いやつめ」と息を零した。
少し子供っぽい隼人が好きだ。
戦いの場では一転して誰よりも頼れる男の中の男になるのも好きだ。
本当は怪異すら殺したくないのに、眉間にシワを寄せて背負うように戦う隼人も。
尊敬──という意味では大好きだ。
隼人は小さい頃には既に人格が出来上がっていて、小学生のころからクラスメイトだった勝平はそれが不気味だった。
だから最初の頃はきつく当たっていた。
隼人の中二病を毎回馬鹿にした。
隼人は泣き虫だった。
怪我をすれば泣いたし、殴られれば泣いた。
だけれど、滅多に人前では怒らなかった。
勝平の父は「隼人くんを信用してあげなさい」と言っていたけれど、意味がわからなかった。泣き虫でやり返しても来ない貧弱な奴をどうやって信用するのか。
四年生のころ、隼人はとうとう怒った。
隼人は自分が馬鹿にされても怒らなかったが、勝平がとうとう自分以外をターゲットにすると、呆気なく怒った。
馬鹿にされたのは小野田絢。
絢に「オカマ男」とあだ名をつけてからかって、絢が持っていたウサギのポーチを力ずくで奪った時だった。いまではとても恥じている。隼人が怒った意味もよくわかる。
──『俺の事を馬鹿にしたり、俺の事を殴ったりするのは悔しいけれど許してやる。でも、俺の親友を虐めるのだけは許さない』
怒られて、驚いたし、腹が立ったし。
それ以上に、自分に勝てる男じゃないと悟った。
「みんな乗っかってくれるといいな!」
「だな」
隼人はゼウスがモチーフなのですが、最初は「老若男女誰でも食えちまうぜグヘヘヘ」みたいなキャラクターにしようとしてました。
最終的には隼人の子供が世界中に散らばってるみたいな感じに。
ですが、さすがにキツすぎるし、俺はシモに直結する様なネタがあんまり好きではないので「老若男女誰とでも友達になりたいぜウヘヘヘ」みたいなキャラクターにしました。