第十三話
どれだけドアチャイムを押しても、梅田進は出なかった。善太郎は苛立って、つい大声で「出てこい卑怯者」と罵った。
善太郎は隼人ほど善人ではなかったから、盗撮魔を生徒として扱うほど、優しくなかった。
隼人なら、根気強く問い掛けつづけたのだろう。
「出てこい! 閉じこもるな! 出てこい卑怯者! お前には話す義務があるんだ! ナメるんじゃないぞ!!」
そうやって叫んでいると、憔悴した母親が引き戸を開けた。その隙に乗り込んで、梅田進の部屋の戸を蹴破った。
梅田進は首を吊ろうとしていた。
そこを、大きく踏み込んで、腹を殴り、吹き飛ばした。
「盗撮がばれたくらいで自殺しようとしてんじゃねェッ! クソガキ!!」
「やめてください、やめてください、この子はいま傷ついているんです、やめてください、おねがいですからやめてください」
「どいてください、奥さん。俺は犯罪者と話をしないといけない。クソッタレのボケカスクソガキと話をしなければいけない」
「やめてください! この子がなにをしたっていうんですか!」
「生まれたろ」
善太郎はどす黒く憎悪にまみれた黒目で、梅田進の母親を睨みつけた。怯えた隙に、梅田進を掴み起こして、顔面を叩いて起こすと、写真を突きつけた。
「この顔に見覚えがあるか、おい、なあ!」
「ひぃっ、やめて、やめて」
「やめてだ? やめねぇよ……てめぇなんで逃げようとするんだよ。お前は恥ずかしくてたまらない人間だな、卑怯者……」
「ごめんなさい、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして、ゆるして……」
「うるせぇ!」
善太郎は拳で梅田進の顔面を殴りつけた。
「島田牡丹を何処で聞き付けた!?」
「せっ、先輩が! 一年生のころ三年生の先輩が『少し前に自殺者が出たんだぜ』って、言ってたんです。だから、信憑性の高い嘘のために、その、自殺者の名前を使って、遊んでたんです。なんで、なんでこんなことにならなくちゃいけなかったんですか」
「生まれたからだろ。遺族が居ることを考えたことはないのか? あああ、だからマヌケは仕方がない。こんな生徒が居たことが鬱陶しい。いいか、梅田進。死ぬな、殺すぞ」
「うう、ううう……」
その先輩のところへ行くことにした。
善太郎は生徒の住所を憶えていたから、いまの住所を探るのは簡単だった。
その先輩も、もっと上の先輩から「自殺者」の話を聞いていた。そのもっと上の先輩は現在実家で暮らしているらしい。
そこまでわかる頃には三日が過ぎていた。
その先輩の実家へ行く。
すると、ただ事じゃない、という空気が漂っていた。
「すいませーん! 倉知さーん! 倉知さんいますかー!?」
ドアチャイムを押して、名前を呼んでも応答はない。
なにか最悪の場合がありえるように思えて、善太郎は裏口に回った。桃色のカーテンが見えた。
揺れている。どうも窓が少し空いていて、風が入っているらしい。
「倉知さんいますか?」
と、呼んでみる。応えはない。窓を開けて、首を突っ込もうと、頭を近づけたところで、異臭。
善太郎はドキッとした後に、「やっぱり!」と思って、すぐに警察を呼んだ。警察が到着する前に、ポケットティッシュから二枚ほどティッシュをとって、ちぎったり小さくして鼻に詰めてから家の中に乗り込む。
死体があった。
ベッドの上で、腐った死体が転がっていた。
頭の横には黒と銀のビデオカメラがある。
警察が到着すると、すぐに善太郎は追い出された。