第十話
翌日、隼人が学校に行くと事件は起こっていた。
校庭に椅子が積み上がっていた。まるで山のようになっていて、隼人はそれを不気味に思った。
じり。
音があった。
じりりりり。
よく見れば、椅子山の上に、電話機が置いてあった。それから音が鳴っているらしい。
着信音?
校長がやってきて、その山からなんとか受話器を取る。
隼人はあっと声を上げた。すこし小さく「チャリン」という音が鳴ったからだった。
校長が「もしもし」と尋ねると、校庭中に響くような大きな声で「もしもし。私、牡丹ちゃん!」と。
隼人は急いで、受話器を校長から奪い取って投げ捨てる。頭の中で「チャリン」と大きな音が鳴ると、次の瞬間、轟いた。
電話機が爆発したのだ。
「ウワーッ! 滝くん!」
隼人は背中を大きく焼いた。校長を庇ったのだ。
「う、うう……構いません。大丈夫です。しかし、校長。これは、事件です。誰かが、学校に爆発物を設置したんですよ……う、うう……きっと、誰かが受話器を取った瞬間に、爆発する仕組みになっているんだ。『もしもし。私、牡丹ちゃん』というのは、きっと、は、犯人がジョークのつもりで設定した爆発を告げる音だったんだ」
隼人は推理を披露して、言いながら通報の電話番号を打っていたスマートフォンを校長に投げつけた。
「ごめんなさい、携帯投げつけて。でも、ごめんなさい、本当にごめんなさい。少しだけ眠ります。もし、不可解なことがあったら勝平に相談して、決して法を信じないで。無法の世界だ。ごめんなさい。本当に。ごめ──」
隼人が気を失った。
この時、校長は通報をしながら、わなわなと震えていた。
自分の生徒が自分を守って地に臥せてしまった。爆発から自分を庇ってくれた、とても勇気のある優しい少年。
校長が思う滝隼人という生徒は、いい恰好をしてばかりいるふわふわとした少年だった。正直に言えば、態度だけなら現代的で、気に食わなかった。
何故、謝るのか。
バキッ、という音があった。スマートフォンを握る手には炎のような模様が浮かび上がっていた。
御歳、四十八歳。生まれ宮城。育ちも宮城の宮城っ子。名は渡善太郎。生徒を想う怒りの炎が燃えたぎる。